《改行表示》 5.高校3年生の頃、当時の国語の先生が「戦争」を知ることのできる幾つかの文芸作品を紹介した。その中で僕が覚えているのがヴェルコール『海の沈黙』、遠藤周作『海と毒薬』、大岡昇平『野火』。そして、それら小説群と共に、先生は、映画『ゆきゆきて、神軍』の衝撃について僕らに語って聞かせた。それからすぐに映画を見に行ったか、それとも暫くしてからビデオで観たのか、実はあまり覚えていないが、当然のことながら、この映画から受けたある種の衝撃は、いまだに深く僕の心に刻まれている。何せまだ純真な高校生だったのだから。。。 戦争従軍体験者の方々の多くが戦後、黙して語らないこと、これは何を意味しているのだろうか。彼らにとって戦争というのは、目の前の現実としてあったはずであるが、山本七平が戦場というものを「何が起こったのかなんて全く分からないまま、気がつくと周りが死体だらけだった」という現実として捉えていたように、体験していながら語りえないもの、事実としてそういうこともあったのだろう。しかし、別の意味で語りえない、語りたくない現実というものもあったはずである。戦場を生きるということは日常の倫理を超えて、人間を残虐にする。それは強さへの過信と共に誰もが持っている弱さから膿出るものであり、戦争という不条理下での否応ない現実なのだ。戦場帰還者に対して、僕らがそのことを論うことはできない。逆にそういう弱さを認識すること、そしてお互いをそういう弱さを持った人間として赦し合うことこそが人間という関係性にとって最も大事な認識<優しさ>ではないか、と僕は思っている。そんな認識に対する強烈でいて確信犯的なアンチテーゼが奥崎謙三という存在であることはもはや言うまでもない。正直いって彼を見ているとある種の嫌悪を感じずにはいられない。しかし、彼こそは純粋でイノセントな人間であることもまた確かなのだ。今やイノセントは行き場を無くし、それは狂気へと容易に転化する。この映画は、そんな人間の弱さを認めず、敢えて時代錯誤的なイデーを身に纏うことによって強さを仮装する男、奥崎謙三の確信犯的な自作自演劇であり、また、それは彼が表現しえたギリギリの人間的な喜悲劇とみなすことができるのではないか。 【onomichi】さん [映画館(邦画)] 9点(2004-05-29 22:21:08) |
4.この人マジ者やし…凄いし…絶句やし…戦争が人を変える?お勧めは出来ない!でも見るべきだと思う…こういう人がいることもでも理解してはならない… 神であるから…マジに見ないように笑える人以外は…かなり不愉快になると思う! |
3.ドキュメンタリー映画というのはどうしてこうパワーがあるのだろう・・・このインパクト・姿勢まさに驚異。正しいか間違ってるかは別にしてね。 【とま】さん 9点(2004-01-09 11:29:31) |
2.戦時下のショッキングな事件を執拗に追求する奥崎さん.すごい執念.すごいエネルギー.すごい人です.でも,間近にはいて欲しくない人ですね.猛獣みたいなもの.彼我を隔てる檻が必要.まあ,実際,檻に入っておられたわけですが.そう言えば,奥崎さん以外にも強烈な人物が登場してましたね.錯乱しながら「兄は!」「兄は!」って叫んでいるおばさんとか,奥崎さん以上に怖かったです. |
1.《ネタバレ》 衝撃作にして怪作。人間が作った「法」に抗い、「神の法」のもと強行される奥崎謙三の一連の言動にえもいわれぬ悲哀と空虚を感じずにはいられない。殊に「良い結果をもたらす暴力なら使う」という論理で本当に事件の当事者(の長男)に発砲して逮捕されるという衝撃のラストは一生忘れないだろう。テロが日常化した近年、暴力で問題を解決しようとする姿勢の愚は誰もが知っている。しかし、奥崎の思想を論破できる人間が果たして世の中にいるのだろうか。戦争とは?法律とは?天皇とは?死とは?暴力とは?慈愛とは?という人間の根本的命題のみならず、戦争という呪縛に囚われた者の因果や戦争という地獄を体験した者の悲愴がこの作品には強烈に刻印されている。 【スペシャルラブ】さん 9点(2003-06-20 00:10:29) (良:1票) |