1.本作が意外と評価が低いのは、ギャングが出てくるいわゆる“マフィアもの”ということで、「ゴッドファーザー」的な重厚な作品世界を期待したからかも知れない。むしろJ・ミリアスの「デリンジャー」や、或いはその肌ざわりとしては、デ・パルマの「アンタッチャブル」に近いものがある。個人的に言えば、このストイックでスタイリッシュな映像感覚には終始シビれっぱなしで、全てのシーンが脳裏に焼きついて離れない。それほど、演出・音楽そして出演者のアンサンブルとその演技力、どれをとっても一級品で、やはり本年屈指の作品であることに疑いの余地はない。ストーリーはいたってシンプルで、このテの作品に有りがちな饒舌さがないだけにテンポも良く、些かもダレるところのないストレートなサスペンス・アクションだと言える。それゆえに細やかなこだわりの演出が際立つというもので、場面場面でピタリと決まるその絵作りの巧さ。とりわけ豪雨の中での音の無い殺戮シーンなどは、身震いするほどの美しさだ。父と子の描き込みが足らないという意見もあるようだが、テーマはあくまでも復讐を誓った男の行動力の美学。描きこみ過ぎることでテーマがぼやけたり、押し付けがましくなるというものだ。特筆ものという意味では、J・ロウ演じる偏執狂的で冷徹な殺し屋。T・ハンクスとレストランでさり気なく会話を交わすシーンでの、彼の上目遣いの悪戯っぽい表情は、「007/ロシアより愛をこめて」のオリエント急行内でのボンドと食事をしていた時の、殺し屋グラントを彷彿とさせる。まさにその不気味さという点で双璧ではないだろうか。 【ドラえもん】さん 9点(2002-12-12 15:43:01) (良:1票) |