9.《ネタバレ》 癌の痛みからどうしても伏していられず、それでも座して騒がず、妻に死期を悟った挨拶をする。幸田の潔い姿に、さすがに刀を所持していただけの侍魂を持っていると感動した。一瞬泣きくずれそうになった妻は、夫の死の覚悟を乱さぬよう必死で耐えて、やがて座りなおすのだが、その一過程がたとえようもなく美しい夫婦愛に見えて、侍とその妻の美学を感じた。外国人は刀やちゃんばらに熱くなるけれども、侍のスピリッツがあって初めて美学に通じるものだとは、なかなか分かってもらえないだろう。強ければいい、かっこよければ全てよしだから、例えば、淋しいけれどもモンゴルの人たちは朝青龍引退の件に対して反日感情を募らせるのだし、彼らがこのシーンを見ても、どうして妻が泣き崩れないのか理解できないだろうと思う。また、人の顔をアップにして必要以上に喜怒哀楽を強調せず、かなりカメラを引いて遠巻きから人々を映している。その姿勢には、監督の誠実さを感じずにはいられない。 【tony】さん [DVD(邦画)] 8点(2010-03-14 14:58:35) (良:1票) |
8.《ネタバレ》 映画が料理だとすると、ここに使われた食材はすべてもともとが「生」「死」「癒し」なのである。「他のものが一切入っていない料理」という、ある意味珍品といえるかも、のメニュー。例えば、「憎しみ」「妬み」「嘘」「偽善」「怠慢」などはこの映画のどこを探しても出てこないでしょう。 ということで「いい人しか出てこない」というより、「3つの要素だけで作ってある」なのだ。 「仕事」というのは「他人の要求に応えることである」と言ったのは橋本治。そして、「他人の要求に応えすぎる」と、人は「消耗」する。たとえ他人の死を見取りすぎたという特殊な職業下でなくたって、「他人の要求に応えすぎる」のは不健康なことで、職業としてであっても「消耗」は避けられない。私はそれが身にしみてわかる。美智子先生の置かれた状況がよーーくわかる。 村に着いても、最初は発作も起こして「これで診察できるのかいな」という頼りなげだった美智子先生が、次第にキャリアウーマンぶりを取り戻してバリバリになっていくのがおもしろい。比べてダンナのほうは一貫して同じペース。いいかげん寺尾は見飽きたけれど、孝夫役は彼でなければならなかったというのはうなずける。 さてこの村の人々がいたずらに死を恐れず穏やかに生きているのは、梅さんの存在ゆえである。 死んだ経験のある人は誰もいないので皆「死」が怖いのだけれど、「限りなく死に近いところに生きる梅さん」の存在によって、人々の「死の恐怖」は緩和されることになる。昔の船旅に不可触の人柱を乗せたように、梅さんは「不吉なもの(死穢)を全部引き受けてくれる」身代わりのような存在だ。 よくできたシステムだと思うが、このような存在は昔は賤しまれていたのではないかと考えるのが妥当だ。最も卑なる聖=アンタッチャブル=有形無形に疎外(隔離)する、というのが日本の文化だ。 映画ではそんなことはみじんも描かれないが、私は「梅さん=アンタッチャブル」という意識で見たほうがいいと思う。それで初めて「なぜ一人であんな便所もないところに住んでいるのか」「なぜ家族の訪問が無いのか」「人が死んだ時しか村人が訪れないのはなぜ」などの疑問が解ける。 偉すぎるニョーボの亭主であるというのも実は努力と技術が居るのでバカにしたもんではなく、どんな男でもなれるというものではありませんね。たまにはこんな珍品も、の一作。 【パブロン中毒】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2008-06-30 13:48:28) (良:1票) |
7.《ネタバレ》 美しい日本の農村風景と共に描かれるのは、人の「生き方」です。主人公夫妻が田舎で始めた生活は、象徴的に引用される宮沢賢治の詩『雨ニモ負ケズ』そのもの。田村高廣は天寿を全うするかのように静かに余生を送くる日々。北林谷栄の質素な暮らしぶりからも、テーマが伝わってきます。富と名声を望まない慎ましい生活の素晴らしさ。良く生きることは、良く死ぬことと同じ。理想とする“人のあり方”が本作では描かれています。共感できますし、穏やかな気持ちになれました。ただ気をつけたいのは、本作から学ぶべきは“生き方の姿勢”“心の持ち方”であるということ。“田舎暮らしのスローライフ”が素晴らしいのではありません。ここは注意が必要です。本作では、“意図的に”田舎暮らしの短所を描いていません。自然と共に生きることは、その厳しさをも受け入れること。それに田舎の人間がみんな素朴で温かだと思ったら大間違いです。生きることの厳しさは都会であろうと田舎であろうと同じ。その前提は変わりません。このことを承知している人に向けた作品なのだと思います。生きることに厳しさは付きもの。だからあえて描く必要は無い。田村高廣の病の苦しみ、小西真奈美の副作用の辛さを描いていないことからも、そのことが感じ取れます。監督の優しさだと思います。厳しさを知ってこそ響く優しさ。いいお話だと思います。しかしその反面、本作を素直に肯定できない自分もいます。やっぱりお金は欲しいし、人から尊敬もされたい。いろいろな事に執着して生きて行きたいと思うのです。それが生きる力でもあります。ですからいつの日か、穏やかな気持ちで本作を受け入れられる日が来るといいなと思います。 【目隠シスト】さん [CS・衛星(邦画)] 7点(2007-01-05 18:11:56) (良:1票) |
6.宮沢賢治の「雨ニモ負ケズ」に代表されるように、清貧であること、謙虚であること、そして心を豊にすることがこんなにも肯定されている映画は、自分の中で記憶にありません。四季の風景や音楽もさることながら、人々の心の描き方が素晴らしいです。いかにして老いを、そして来るべき死を迎えるか。これからの高齢化社会になくてはならない映画ではないでしょうか。とても癒されました。<追記>しかし改めて見ると、物足りない部分を感じるばかりか、田舎の良い部分ばかりにスポットライトが当てられている気がしました。前回見たときは、きっと精神状態が良かったのでしょう。1点マイナスです。 【mhiro】さん [地上波(字幕)] 7点(2004-09-24 16:20:35) (良:1票) |
5.信州の自然の中にとけ込み癒しを求める主人公(樋口可南子)像を描くというのに、エルメスのバックを常に手放さない、ロイヤルコペンハーゲンの陶器を使う、時計は多分シャネル、洋服は常に23区(これはやや地味)…これって、四駆で河を汚すBBQをしておいて自然を親しむっていう都会人のパロディなんだろうか。◆試みは分かるが、この映画を2時間以上にしてしまうプロデュースの甘さが、邦画をだめにしてしまうのでしょうね。それに医療面でもう少し、専門家に監修して頂いたほうが良かったのでは?手術に入る場面がきつい。 【みんな嫌い】さん [映画館(字幕)] 1点(2004-02-11 08:33:00) (良:1票) |
4.良かったのであります。 【ゆうろう】さん 8点(2003-12-29 22:22:47) (良:1票) |
3.社民党の選挙演説を、2時間に渡って聴かされてる様だった。なんで映画で説教されなアカンねん。 |
2.各俳優陣の澄んだ演技と信州の美しい四季が見事に溶け込んだ作品。心を病んだ樋口可南子と自然と生きる婆・北林谷栄を比較しながら、他の登場人物すべての生き様を垣間みる事ができるのは、脚本の良さか演技力の高さか。原作とはまた違う味わいがあります。小西真奈美ちゃん、光ってます!日本人のアイデンティティをくすぐるこんな映画がなかなか邦画との縁を切らせてくれない。 【つむじ風】さん 8点(2003-09-23 23:23:03) (良:1票) |
1.なんだろう・・・この美しさは。母、祖母、私の親子3代で見ました。日本映画の良さである四季も美しさ、人間の心の模様を鮮明に映し出している作品です。こんなに美しい映画は初めてです。見る前までは私の母親世代の人にウケる映画なんだろうな~と思っていましたが、高校生の私でもこんなに感動するとは驚きです。お梅さん役の北林さんの存在がこの映画を明るくしています。アカデミー助演女優賞の名にふさわしいですね。これから見る予定の方はぜひDVDで見ていただきたいです。日本ってまだこんなに美しさが残っていたんですね。外国映画ばかりで邦画を小ばかにしてきたことを反省します・・・。いつか私もあんな夫婦になりたいな。 【未歩】さん 8点(2003-07-27 22:15:12) (良:1票) |