5.まさに戦後という激動の時代が生み出した、人間ドラマの傑作。三國連太郎演じる主人公・犬飼多吉を軸に、娼婦八重(左幸子)、初老の刑事(伴淳三郎)達の個々のドラマを絡めながら、壮大なる人間ドラマが骨太なタッチで描き込まれてゆく。人間に内在する善と悪、突然現われる運と不運、表裏一体である生と死、社会に目を向ければ当然の如く富と貧 …等々を浮かび上がらせており、まるで人間として生まれが故の数奇な運命劇を観るようである。地蔵和讃を取り入れた、冨田勲の荘厳な音楽も多大に貢献。巨匠内田吐夢の一級品の演出はもちろんのこと、人間への深い洞察力と凄まじい描写力には心底脱帽ものです。個人的には、前半のにぎり飯とセックスのシーンが印象的だった。主人公にしてみれば金銭に替えられない程の価値があり、生涯忘れられようはずのない人間の真の優しさに触れたはず。それなのに何故…。監督自身も戦中、戦後を通し、満州で長年に渡る抑留生活を体験するなど、波乱万丈の半生を時代と共に生き抜いた筋金入りの御仁。その間、人間の優しさ、エゴ、冷酷さを嫌というほどまの当たりにしてきたと言う。本作は、そんな人間というものを知り尽くした、巨匠の集大成と言えるのではないだろうか。文句なしの10点満点。 【光りやまねこ】さん 10点(2004-01-13 00:02:58) (良:3票) |
4.樽見京一郎の少年時代をもっと見たかったですが、原作からこれ以上のものはもう差し引きできなかったのでしょう、多少のアレンジはありましたがほぼ忠実でした。これでも3時間ですからね。八重の左幸子が特出しています、本当に待望の一作をみられてよかったです。すばらしかったです。 【HRM36】さん [DVD(字幕)] 8点(2013-11-07 09:42:40) (良:1票) |
3.ずいぶん昔に見た感動の映画。主役は三國連太郎だが、弓坂刑事の伴淳三郎、杉戸八重の左幸子の印象が強い。伴淳三郎はコメディアンとしか見ていなかったし、左幸子がこれほど情の深い役をするとは思っても見なかった。爪を大事にとって哀願するさまは目に焼きついて離れない。 【ESPERANZA】さん [映画館(邦画)] 8点(2013-09-30 07:12:34) (良:1票) |
2.中学生の頃に原作を読み、酌婦八重の情の深さに涙した。以来、水上勉の薄幸の娼婦を扱った小説をいくつか読んだが、「飢餓海峡」の杉戸八重が僕にとってのNo.1であることは変わらなかった。<ある意味で僕の女性観に決定的な影響を与えたといっても過言ではないかもしれない> 映画を観たのはちょっと先の話。イメージというのは恐いもので、左幸子もそれなりにがんばっていたが、ちょっと狂信的な感じが立ちすぎて、僕の八重のイメージとは違うし、原作をかなり端折った<東京での八重の暮らしぶりとか>途中の展開にもすんなり入っていけなかった。原作と映画の関係というのは難しい。映画だけ観れば、この作品が名作であることに全く異論はないが、原作に感動し、そのイメージが出来上がってしまうと、原作に忠実な映画というのは、作品の単なる短縮版のような感じがしてしまうのである。<長編小説の場合は特に> 作品として完成されたもの同士を同列に観てしまうとそうなってしまうのかな。正直言って、こればっかりは仕方がないことかもしれない。ただ、映画ということで敢えて言えば、画面から漂う雰囲気がとても切なく、伴淳の名演もあって、期待以上に見応えがあったことは間違いない。 【onomichi】さん 9点(2004-01-25 18:40:18) (良:1票) |
1.日本映画の史上ベスト・ワンは黒澤明の「七人の侍」と相場は決まっているのだが、個人的好みでは本作のほうを推す。(このコーナーで今まで誰一人としてコメントが無かったのがむしろ不思議なほど。)白黒で3時間の長尺の作品であるにも拘わらず、まるで金縛りにでも遭ったかのように身じろぎもせず鑑賞したものだった。それほど冒頭から衝撃の幕切れまで、時代に翻弄される人間ドラマとその重厚な映像(かなり実験的な映像表現も試みられていた)には圧倒されっぱなしで、その完成度の高さは他に類を見ないほど。とりわけ船上でのラスト・シークエンスが強烈で、日本映画としては生涯忘れえぬ名場面となっている。さらに三国連太郎,左幸子そして伴淳三郎らの一世一代の名演が、この作品をより格調高いものにしている。 【ドラえもん】さん 10点(2003-02-06 17:41:55) (良:1票) |