5.驚いた。全然、古くない。自分の生まれる前の映画を観て、普遍性という言葉におさまりきらない、ここまで現代の感覚で見ても「新しい」と思える作品に出会ったことはまずない。黒澤作品だって何本か観ているし、今までは「デルス・ウザーラ」が最高と思っていたが、初めて「いや違った!」という気持になった。世間的には「天国と地獄」への評価のほうが高いかもしれないが、私にとってはあれをはるかにしのぐ。今見るとショボいお金持ちの家を舞台にしたあちらと比べ、戦後の混乱期をひたむきに生きている庶民を中心に描いているからかもしれない。切なさというスパイスは、断然こっちです。何より言えることは、テンポがいい。躍動感がある。バツグンのスリルがある。物語としての整合性、リアリティーがすごい。映像美がたまらない。でもそれだけじゃない。古今東西の作り手がいかにこの映画をパクリまくってきたかに気づき、アゼン。だが、ここまで素晴らしい映像作家を生み出したこの国で、なぜこの大いなる財産を、パクリという安直なやり方ではなく、発展というかたちで生かすことが出来なかったのか、ということにボウゼン。まあしかし、生きてるうちに、これを観ようという気になっておいてよかった! 今はとにかくもう一回、ビデオを巻き戻して、この傑作を楽しもう。なにしろ、この映画にはいろんなしかけが見受けられる。一回見ただけじゃきっと見落としているところがありそうだ。小道具や音楽の使い方も、ハンパじゃない(ピアノのシーンの秀逸さを言う人が多いようですが、私はハーモニカのシーンが好き~)。それに、このときの三船敏郎って、まるでジョニー・デップみたい。酔える! 【おばちゃん】さん 10点(2003-12-19 23:28:48) (良:2票)(笑:1票) |
4.《ネタバレ》 若き日の三船敏郎が主人公の刑事ということで、どんな犯罪捜査のあれこれを展開するのかと思っていたら、何と最初に盗まれた拳銃というシングル・イシューで押し切ってしまっていたのにはびっくりした。その捜査も、まずは手がかりの女スリをただ追う。ひたすら追う。で、今度は、引っかかるかどうかも分からない拳銃商を探し続ける。この一本筋ぶりには、清冽さすら感じます。そして満を持して志村先生が登場します。1シーンで実力のほどを表す取調室のシーンも見事です。ところが、そこから後がいけない、というか意外に弾まない。重要なキーパーソンが登場したのだから、そこで主人公がスパークするなり、相棒によって主人公の隠れた素質が生かされるなりしてくれないと、前半で細い糸を延々とたどった甲斐もないと思うのだが、それほど何かが効果的に進んでいるわけではない。したがって、後半は何か停滞した感じになってしまいました。あと、全体の尺ももっと短くできたはずです。 【Olias】さん [CS・衛星(邦画)] 4点(2025-04-04 01:01:44) (良:1票) |
3.《ネタバレ》 注意。超ネタバレ。
この映画は、真夏の暑い夜、野外上映会(俺が子どもの頃には夏休みの一日、たいていそういう日があった)で観たかった。今は夏だが、エアコンの利いた部屋で観た。格好悪い俺(この格好悪さは、三里塚のドキュメンタリーをDVDボックスで買うプチブルっぷりと共通している)。
ラスト付近。 刑事が犯人を捕まえた後。二人ともへとへとになって倒れ込んでいるところ、朝の通学なのか、子供たちの歌声が聞こえる。姿は見えない。 画は花や虫のアップだ。スゲー(これじゃあ黒澤が歴史にその名を刻んだのも無理はない) 犯人は泣き始める。 その言い知れぬ後悔は俺にも伝わってくる。 「ぼくたちはかがやく陽射しを目指すべきではなかったのか」 <- ここは一種のなぞかけになっている。ほとんどの人はわからないはずだ。
妙に大いなる勇者を思い出させる映画だった(が、もちろんこっちのほうが早い。内容も全然違う)。 【おら、はじめちゃん】さん [DVD(字幕)] 8点(2022-07-07 02:55:10) (良:1票) |
2.《ネタバレ》 暑苦しい映像はそのまま社会の暑苦しさ、生きにくさを象徴している。だからあれだけ永いシーケンスが必要だったのだ。悪い環境ゆえに罪を犯すという考えがあり、実際戦後の混乱期には犯罪が多発した。犯人遊佐のような生活環境であれば、もしかしたら自分も悪事を働くかもしれない、そう視聴者に思わせられなければ失敗だ。映画はそのことに全力をあげている。ぎらぎら光る目、ぎらつく太陽、疲れてふてくされた顔、水溜りに映る後姿、夕立、一々構図が決まり、カタルシスを覚える。一転、屋上での涼しそうな夕雲。空を大きくとった構図が素晴らしい。「ひと雨きそうだな」の言葉通り、雨がやってくる。その直前の雷。並木ハルコが遊佐からもらったドレスを着てくるくる回る。ドレスはあこがれの象徴だ。どしゃぶりとなり雷鳴と同時に刑事が撃たれる。ドレスも雨に打たれる。泥が犯人逮捕のヒントとなる。犯人を逮捕するシーンは、走って、止まり、撃って、静かにピアノが流れ、血が滴り、花が美しく映える。逮捕されたあとの子供達の歌声、そして犯人の咆哮。音と映像の静と動のコンビネーションは芸術。全てにおいて考えつくされており、無駄がない。遊佐と村上刑事は双子のように表裏一体に描かれる。ほんのちょっとしたきっかけで立場は逆になっていただろう。村上も遊佐同様、復員時に荷物を盗まれているし、辞表が受理されていれば自暴自棄な人生に陥ったかもしれない。人間の危うさ、運命の非情さ。遊佐の家と佐藤刑事の家も上手に対比させている。人間らしさが全く伺えない遊佐の茅屋。佐藤の家では子供達がすやすやと眠る姿。その眠る姿から静かに殺人現場へ移る。ここでも花とピアノが印象的に使われている。妻を殺された夫が狂ったようになってつぶしたトマトのアップ。死体を見せずに事件の残虐性を余すところなく伝える。善悪に徹しきれず、犯人に同情してしまう村上。犯人のことなんて忘れるんだなとアドバイスする佐藤。若さと老練、情と冷徹。遊佐から慕われる並木は社会を憎む危うい若人の一人として描かれる。女スリの見せた刑事への同情、遊佐に強く同情する姉、女たらしのリーゼント男、従業員と浮気する旅館の経営者。人生の機微を多様に描き、この悲劇は誰にでも起こる可能性があることを示唆する。天才のなせる業としかいいようがない傑作。文句なしの10点。 【よしのぶ】さん [DVD(邦画)] 10点(2009-07-08 07:25:59) (良:1票) |
1.この映画が50年以上も前に作られた映画だということに唖然とする。時代背景は当然古めかしいが、語られるテーマはまさに普遍。メッセージ性の強い主題を描きつけながら、少しも説教臭くない刑事ドラマへと昇華させているあたりに、もはや「巨匠」という言葉では片付けられない黒澤明の偉大さを感じる。それと同時に、さすがに瑞々しい三船敏郎の眼差しに惚れ惚れする。 【鉄腕麗人】さん 8点(2004-04-18 16:17:18) (良:1票) |