5.《ネタバレ》 記念すべきトリュフォーの“アントワーヌ・ドワネル”ものの第一作。彼はアントワーヌ・ドワネル(ジャン=ピエール・レオ)の人生を定点観測のように20年にわたって映像化するという実験的とも言える活動をしたが、同一演技陣を使って12年間の物語を一本の映画にしたリチャード・リンクレイターの『6才のボクが、大人になるまで。』の構想の元になっているかもしれません。考えればリンクレイターは『ビフォア~』シリーズでも同一のキャラの18年間を同じ出演者で撮っているし、けっこうトリュフォーからの影響というかリスペクトが強い印象があります。 どうやら私生児として息子を出産したらしい母親と義理の父親という両親を持つドワネルくん、血の繋がりのない父親はどちらかというと鷹揚なのに母親は常に彼に厳しくあたっている。12歳なのに実は自分は母親が中絶するはずだった子だとすでに知っており、これじゃ険悪な母子関係になっちゃうのも納得しちゃいます。劇中ほとんど喜怒哀楽の表情を見せず何を考えているのか判りにくい子なんですが、家出癖はともかくすでに立派な窃盗常習犯になっています。そんな彼の家庭生活と学校生活が、コンパクトに判りやすいストーリーテリングだったなと思います。ヌーヴェル・ヴァーグ典型のオール・ロケ撮影ですが、クリスマス前のパリの寒々とした風景を捉えるアンリ・ドカエのモノクロ撮影が素晴らしいし、単調ながらもノスタルジーが感じられる音楽もなんか心に染みてくるんです。後半三十分ではドワネルくんは鑑別所送りになるわけですが、面会に来た母親が職員に告げる実子を完全に見捨てる宣言には、ちょっと身も凍る衝撃性があります。最近は日本では〝親ガチャ”なるミームが流行っていますが(ちなみに私はこのフレーズには嫌悪感があります)、でもほんと悲しいことに子は親を選べないというのも真理なんですよね。でも、ラストでスクリーンの向こうにいる観客に向ける目線に「こいつは成功者になるかどうかは判らんが、人生の荒波に飲み込まれて溺死することはないだろうな」という希望を自分は感じてしまうのでした。 【S&S】さん [CS・衛星(字幕)] 9点(2025-04-12 23:15:56) |
4.《ネタバレ》 俺は「アメリカの夜」の方が好きだが、彼の最高傑作はやはりこの作品になるのだろう。 トリュフォーの自伝的内容のこの映画は、「野性の少年」で描かれた内面的な自伝要素とはかなり違う。生々しい、外に向かって放たれる痛々しさ。 彼の師であるアンドレ・バザンに捧げられた言葉と共に映画は始まる。教室でテストを受ける生徒たち。彼等は教師の目を盗んでポスターを回し、不運にも先生に見つかった生徒は人身御供として差し出される。 アントワーヌは日頃からチョークを投げつける教師に目を付けられ問題児扱いされ、家に帰っても母親に「成績が悪いのも当然ね」などと平然と言い放つ厳しさ、片身の狭さ。父親と同級生が心の支えになっていたが、そんな父も母親の顔色を伺い、母も共働きで不仲。アントワーヌも無理に家事を手伝わされ宿題も手につかないという有様。 寝る場所も裏口という寒い場所。アントワーヌはタバコやワインまで飲んでしまう不良小学生となっていく。教師が彼を目の敵にすればするほど、アントワーヌの心は益々荒んでいく。円筒形のアトラクションで遊ぶアントワーヌ。遠心力で動きがままならなく様子は、人々に振り回され閉所に押し込められていくアントワーヌのその後を暗示するよう。 アントワーヌが見てしまった母の情事。アントワーヌの怒りと失望に満ちた表情。アントワーヌは父を気遣いその事を中々言い出せない。彼にとっても信じがたい、嘘であってくれという現実。 勢いで飛び出す家、路上で人に見つからぬように牛乳を盗んで飲む、証拠隠滅まで図る。それでも一応心配して彼を抱きしめ母親、体を洗ってくれる愛情の欠片。 ヒビの入った家族をどうにか繋ぎ止める映画。疲れた父親すらハッスル(嫁の胸を乳揉み)させるエネルギー、母の言葉、本との出合い。せっかくやる気になってがむしゃらに頑張っても報われない虚しさ。だからといって丸写しで停学とはいくら何でも酷い。 一度付いた嘘は延々と足を引っ張る鎖になっていく。 売れなかったとはいえ盗み出したタイプライターを一人で戻しにいく健気さ。だが子供でも罪は罪、親友すら赤の他人という素振り、親にすら半ば見捨てられ彼の心は死んでいく。子も子なら親も親。夜の市街を見つめる眼差し。 脱走し走って走って走っても見えない出口。ようやく辿り付いた浜辺で、彼は何を思うのだろうか。 【すかあふえいす】さん [DVD(字幕)] 9点(2014-05-01 21:11:46) |
3.《ネタバレ》 誰氏も子供の頃にこのような「大人は判ってくれない」という感情はあるものです。私も同様の思いはありますので子ども目線に帰ってみればドワネルの気持ちはいたいほどわかります。逆に大人になった自分の目線で観てもこの母親は最低だと思います。特に鑑別所での最後の言葉は酷い。そしてラストシーンへとつながるわけですが。普通で言えばドワネルのその後は不良への道へまっしぐらとなるのでしょうが、最後のカメラ目線は驚きと同時に今に見てろと言ってるように感じました。しっとりとした映像の中で乾いた人間の感情がむきだしているのはそのコントラストを狙ったのでしょうか。久々にマイベストに入れたい程にその余韻に浸れた映画でした。 【仁】さん [CS・衛星(字幕)] 9点(2013-02-09 09:53:55) |
2.13歳って、ちっとも楽しい年齢じゃないんだよね。自分の劣等感に悩んだり、漠然とした不安を抱えていたりする。はやく大人になりたくて、大人になりさえすればどうにかなると思っている。でも実際大人になってしまうと、子どもの頃のそういう微妙な感情を忘れて、13歳はハッピーな年齢だと懐古してしまうんだな。だからふてくされている子どもに向かって「どうしてお前はそんななんだ!」と怒ってしまうんだな。そういう判ってない大人の姿がイタかったなぁ。でもこの要領が悪過ぎる13歳の少年もまた、狂おしいくらいイタいんだな。そういうえぐられるような感情のゆさぶりを与えてくれる映画なのにどこか淡々としていて、最期もまるで通りすがりの風景みたいにあっさり自然。いつの時代の少年にとっても、名画でありつづける作品だと思う。 【ともとも】さん 9点(2004-12-29 14:32:16) (良:3票) |
1.最後のアントワーヌの表情が忘れられません。子供の気持ちがそのまま伝わってくる見事な作品。 【たましろ】さん 9点(2003-11-15 21:11:15) |