11.《ネタバレ》 これは恐い。まずは何と言ってもマックス・シュレックというこの俳優が恐い。あの坊主頭にギョロッとした眼にあの長い爪、本当に恐いです。よくこんな俳優、見つけてきたものだと感心させられる。ノストフェラトゥが棺桶の中から出てきて、起き上がって徘徊する場面のあの恐ろしさ、全編モノクロのコントラストを生かした映像美に合わせるように動くノスフェラトゥ、顔付きがとにかく不気味です。そして、この映画、あのセットも凄い。窓と風にそして、立つ波とあらゆるものを駆使し、また、遠近感を利用してノスフェラトゥを巨大な怪物に見せようと、色々工夫されているのが観ていても解る。斜めからの構図、コマ落としなど今みたいにCGなど無いこの八十年以上も遥か昔に考えられる技術というものを全て駆使し、観ている者に恐怖を与えることに成功している。ヒロインの寝ている所を窓に張り付くようにして見ているノスフェラトゥの恐ろしさ、更にノスフェラトゥのシルエットが落ちて、寝ている男の前へと覆い被さっていく時の恐いこと。恐いこと。棺桶から沢山のネズミが出てくる場面も何とも不気味です。映像の美しさ、モノクロならではの、モノクロだからこそ表現出来ることの恐さ、これから映画を撮ろう。ホラー映画を撮ろうと考えている監督さんたちは見習うべきものがこの映画には沢山あるのではないだろうか! 【青観】さん [DVD(字幕)] 8点(2008-04-01 20:22:42) (良:2票) |
10.サイレント作品ですから耳をつんざくようなキャーキャーというけたたましい叫び声は聞こえませんし、生々しい血がドクドク流れるわけでもないのですが、これが怖いのです。面白いのはノスフェラトゥはコミカルな場面では異様に素早い動きなのに、襲う場面はいたってスローになるところです。通常は〝静〟から〝動〟への転換でアッと言わせるものです。例えばセンサーに反応して人形が突然飛び出してくる安いお化け屋敷のように、あるいはティーンエイジャー向きのホラー映画の殺人鬼ように。しかし、よくよく考えてみればこの〝静〟から〝動〟で感じさせるものは〝恐怖〟というより〝驚き〟に近いです。擬音で表せばびっくりの〝ドキドキ〟であって背筋が寒くなる〝ゾクゾク〟ではありません。つまり純粋な意味での恐怖ではなく驚きが多分に混在した感情なのです。ですが、本作はそのドキドキではなくゾクゾクを見事に感じさせてくれます。つまり本当の意味での恐怖。ノスフェラトゥのあのシルエットと動きの不気味さ。ネズミの使い方の上手さ。これは純粋恐怖映画の教科書のような作品です。 【ミスター・グレイ】さん [DVD(字幕)] 7点(2007-07-02 18:07:32) (良:2票) |
9.《ネタバレ》 深夜でも昼間のように明るいという発想は一瞬面喰らうが、奇怪な白昼夢と受け取ればイマジネーションが喚起されてオモシロイ。この当時のヨーロッパ、何がオソロシイといえばペストやコレラなどの疫病の蔓延だったに違いなく、その眼に見えない恐怖を兼ね合わせることにより吸血鬼の悪夢的イメージを増幅させている。この作品を見た当時の観客(とくに女性)は背筋が凍り付くほど怖かった違いない。物語はといえば、恋人の無償の愛こそが悪鬼を滅ぼすという溜飲の下がる古典的スタイル。しかし本作で特筆すべきは、吸血鬼ノスフェラトゥの一度見たら忘れられないその何とも形容のし難い姿かたちに尽きるでしょう。尖った耳に枯れ枝のような細長い指、フロックコートに身を包んだ吸血鬼が棺からスゥーっと起き上がる様はゾッとするほどの不気味さである。その一方、「大事な血が」といって来客の切り傷の血をチューとすすったり、自分の寝床である棺を抱えていそいそと引っ越し先に向かったりするなどちょっとユーモラスな一面も垣間見える。怪奇映画の古典に登場するキャラクターとしてはある意味カリガリ博士を超えるインパクトを放っており、コワいが味のあるお気に入りの一本です。 【光りやまねこ】さん [ビデオ(字幕)] 9点(2006-09-04 00:32:36) (良:2票) |
8.《ネタバレ》 『ノスフェラトゥ』といってもストーリー・ラインは『ドラキュラ』とほぼ同一。これは『ドラキュラ』の原作者であるブラム・ストーカーの未亡人がムルナウの映画化プランにOKを与えなかったからで、登場人物の名前を変えてストーリーも少し改変したら大丈夫だろうと強引に映画化しちゃったので案のじょう著作権侵害で裁判になり当然のごとく敗訴してフィルムは差し押さえ、その後40年近くお蔵入りだったそうです。『ドラキュラ』は19世紀の小説だというイメージですから、1920年代にブラム・ストーカーの未亡人が存命だったとは驚きです。 2011年にNHKで放映された復元版での鑑賞でしたが、これが驚くほど鮮明な映像です。いくらデジタル技術が進歩しても残存するフィルムの状態に左右されるのが復元版の宿命ですが、欠落だらけで悲惨な状態だった『メトロポリス』の復元版に比べると雲泥の差です。サイレント映画ながら俳優の演技にサイレント特有のわざとらしさがあまり感じられず、編集も現代的なテンポに通じるところがありました。マックス・シュレックのノスフェラトゥは歴代ドラキュラの中でも群を抜いて不細工、そして群を抜いて不気味です。初登場のシーンや棺桶を担いで街をさまようところ、そしてエレンの住んでいる向かいの屋敷に姿を現わすカット、これは子供の時に観たら生涯残るトラウマになったことは間違いなしです。顔は禿げたネズミ男みたいでよく考えると滑稽でさえあるけど、そのふらふらした挙動と狂気をはらんだ目つきがなんかヤバいものを見てしまったという恐怖に襲われてしまうんです。でもラストは強引かつあっけない幕切れで、そこまでのテンションが一気に下がってしまうところは残念ですが、まあそこはサイレント映画なのでしょうがないでしょうね。 確かにこれは、死ぬまでに観ておくべき映画の一本ですね。 【S&S】さん [CS・衛星(字幕)] 7点(2018-07-22 23:42:42) (良:1票) |
7.あのポーズ、肩をそびやかして目を大きく剥いているのは、あれは恐怖に「襲われた」側の表情でもあるんだよな。舌なめずりをするような気分を表現するのに、ああいうポーズを取らせる効果ってのは何なんだろう。たしかに不気味なんだ。彼自身が背後からそそのかされて血を吸ってるって感じなのかな、純粋な悪はその背後にあるって言うような。あるいは過度の恐怖と過度の歓喜は同じ戦慄を呼び起こすと言うか。とにかくこの映画にはドイツロマン派の気分が満ちている。ペストの恐怖と重ねられて独特の暗鬱なロマンチシズムが溢れている。とりわけ光景、城の入り口付近や、フッターの向かいの建物、恐怖をゆっくり運び込んでくる帆船のしずしずとした動き、災いの町と化したブレーメンの縦に続く石の道(その白い道をペストの犠牲者の黒い棺が運ばれていく)。どれも素晴らしい。ノックを追い掛け回す群衆にはドイツ民話の雰囲気もあるが、やがてラングの『M』でも描かれるだろう未来のナチズムに通じる「迫害するドイツ群衆」の基本形が、ここですでに提示されていたのかも知れない。白黒反転はいい効果を出してたが、コマ落としはちょっと滑稽(当時の映写方法だとそうでもなかったのかな)。 【なんのかんの】さん [CS・衛星(字幕)] 7点(2011-09-14 10:07:32) (良:1票) |
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6.吸血鬼映画がどうとか、怖さがどうとかの前に、創意工夫の素晴らしさに驚く。90年近く前のサイレントムーヴィー時代に撮られたワケで、CG全盛の現代から見れば機械技術的な表現技法など稚戯に等しい時代である。そんな中、どうすればより不気味に見えるか、より怖く見えるか、を工夫し、影やコントラスト、表情、動きなどで映像的不気味さを演出している。また、吸血鬼を単なる人型のモンスターとせず、ペストという厄疫を運んでくる存在にして潜在的な恐怖を喚起する手法も工夫の一端だろう。いやぁ、ほんっと人間(の工夫)って凄い。w 現代の、何かと言えばすぐにCG頼りの映画製作者どもに100万回くらい見て欲しいね。 【TERRA】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2009-07-06 13:35:36) (良:1票) |
《改行表示》 5.《ネタバレ》 素晴らしいです。 冒頭から、暗鬱で重苦しい空気が漂っている。そして白黒のコントラストが美しい。 セリフがなんだかナルティシズムで、美しい余韻を残す。 大胆な身振りや表情が良い。狂気が伝わってくるようだ。 たとえば、本を投げつけるときの大胆な動きは美しいと思う。 食事を待っている時に、「早く食事を!」と激しく机を叩くが、その激しい動きにも何か歪んだ狂気が宿っているように思えて印象に残る。 表情にしても、レンフィールドの笑顔は凄まじいほど(あの人おかしいんです!)。ジョナサンは主人公であるがそのジョナサンの笑顔にでさえ狂気が宿っているように感じてしまう。 そして奥さんの背が高くて無表情な存在感も独特。 音楽もどこか欝で静かな感じで素晴らしく、居心地の良さを感じる(サイレント映画の音楽は基本的に良いです)。 怪物は鼻がワシ鼻で指が長くてノッポでとても人間離れしていて、 なんだかとてもシュールだ(そして不気味!)。 不吉な存在感でもあるが、メルヘンチックなグリム童話に出てきそうな妖精のような存在にも思えた(悪い妖精ですよ)。 なんだか森が深くて山が高い、その深い森林には神秘的なものを感じる。 僕は森を神秘的なものだと思っているから森がでてくる作品は好きなのです。 この作品には森に深い陰が存在しているように感じた。 その森に生息する「狼」がとても不気味に映されている。 病魔が町を埋め尽くし、太鼓叩きがそれを警告をする場面がとてもシュールです。 多分、この作品にはまともなものなんて一つも無いんです。 【ゴシックヘッド】さん [DVD(字幕)] 8点(2008-01-22 00:17:11) (良:1票) |
4.怖い。ノスフェラトゥの動きが怖い。モノクロ映画だからこそ作れようなこの映画。ムルナウの作り方は巧すぎるというほかにいいようがありません。不気味な爪におぞましい顔つき。ただ夜でも昼でも同じような感じがしたんだけど、夢の中の出来事だと思えばソレはソレで納得。ノスフェラトゥ登場→ブレーメン進出→ペスト大流行の展開が見事でした。やはりこの頃のドイツ映画っていうのが世界最高峰だということを改めて感じた。 【M・R・サイケデリコン】さん [DVD(字幕)] 7点(2007-05-20 11:48:59) (良:1票) |
3.数多くのドラキュラ映画の中でダントツに怖い。というよりこれ以外はあまり怖くない。その怖さの要因にマックス・フォン・シュレックの容姿がまず上げられるのは言うまでもないが、その恐怖の容姿を纏った吸血鬼に人を襲わせて怖がらせるようなその場しのぎの恐怖演出などせず、ただ立っている、ただ歩いている、ただ向かいの窓からこちらを見ている、それ以外は想像させることで恐怖を駆り立てる。恐怖の想像を助長する影の演出が効いている。そして他の多くのドラキュラ映画は吸血鬼にスポットが当てられるが、この作品はこれほどの怖い容姿を有しているにも拘らず、人々の恐怖心にこそスポットが当てられる。町中が、国中が、死におびえ、窓を閉めて閉じこもる描写、運ばれる棺の列に見るその恐怖の現実性、ヨーロッパ人のペストの記憶とそれらを吸血鬼に結びつけるストーリー構成。怖い!そして巧い!と唸らされる一本。 【R&A】さん [DVD(字幕)] 8点(2007-01-22 13:18:35) (良:1票) |
2.映画史を遡るしかない我々には元ネタを発見するという楽しみがある。脚本の元ネタは当然だが、数々の構図が後年の作品にそのまま使われていることに驚く。これはつまり模倣することでしか水準を満たすことのできない、カリスマ的なまでの完成度を本作品が有しているという証明だろう。 それにしてもこのシュレックという俳優はその容姿といい、影絵に生かされる長い指といい、まるでこの作品のために生まれたかのような俳優ではないか。 この作品においての影絵とはグロテスク描写を排するための手段であり、美しさであり、光と影の戦いの象徴でもある。船の上部をぐるりと回りこむ際の影はとりわけ忘れ難く、この作品の力強い存在を見せつけられる。 【stroheim】さん [ビデオ(字幕)] 7点(2006-09-24 12:24:37) (良:1票) |
1. 原作はアイルランド出身の作家ブラム・ストーカーが書いた余りにも有名な怪奇小説「吸血鬼ドラキュラ」だが、ストーカー夫人の許可が下りなかったため、斯くの如きタイトルとなった。ストーリーも可成りアレンジが入り、後年ユニバーサルやハマー・プロで映画化されたドラキュラ映画とは明らかに一線を画している。何より圧倒的なのはフリードリヒ・ウィルヘルム・ムルナウ監督のモノクローム映像というモノを知り尽くした光と影の演出であろう。ここで念頭に置かなければならないのは本作の制作年度が今を去ること81年も前、という驚くべき事実である。今日の視点で「ショボい」と一刀両断するのはフェアではなかろう。寧ろ、ヴァンパイア映画なぞ皆無だったこの時点でこの高いオリジナリティ&クオリティを発表した力量と歴史的意義を評価せねばなるまい。スキンヘッドに異様に長く伸びたツメが印象的なオルロック伯爵ことノスフェラトゥを演じたマックス・シュレックは個人的にはクリストファー・リーやルゴシを凌ぐインパクトを覚えたものだ。1978年にウェルナー・ヘルツォークが本作をリメイクしたが、クラウス・キンスキーまでスキンヘッドになっていたのには笑ってしまった。ま、アレも悪くはないが矢張りオリジナルには及ばないな。ココは素直にムルナウに敬意を表して満点、と言いたいトコロだけど1924年の「最後の人」(エミール・ヤニングス最高!)がムルナウのベストと思う身としては如何なものか、というコトで…9点! 【へちょちょ】さん 9点(2003-07-14 02:56:51) (良:1票) |