10.《ネタバレ》 夢から覚める場がない、タイトルバックが江戸川土手でない、マドンナがとらやの座敷に上がらない、などの変化あり。室内の暗さが今回は目立ち、京都の伝統を出す意識的なものもあろうが、マドンナ(かがり)の暗い情念とも通じていたよう。今回の趣向は、寅がマドンナに追いかけられる、という点。今までもホンワカムードになったのはあるけど、一途に思いつめられて付け文をそっと渡されたりまでする。その前に丹後でかがりの家に泊まることになっちゃうのが予備段階の緊張。かがりの母が近所の手伝いに出てしまい居心地の悪くなる寅の晩餐、自分からお酒を求めるかがり、狸寝入りしている寅、そっと部屋に上がってきて寅の横にしばらく座るかがり(娘のランドセルを取りに来た、という理由はある)。その心理のだんまり芝居を見ているようなせめぎ合いが見事。かがりは失恋の痛手に、加納の「人に気を使うな」という叱責の言葉が重なりズタボロで、ゆきずりの・下駄をくれただけの下駄顔の男に弱った心が一気に傾く。翌朝の別れのとき想いが溢れ、ずっと船を見送り続けているかがりのカットの積み重ね。なんか蛇体となった清姫のような凄味さえ感じられてくる。山田洋次は、臆病になってはならぬといつも言いながら、そうい臆病になる人たちをいとおしんでもいる。寅も含めて。ここらへんシリーズ通してのテーマ。あともう一つシリーズの重要なモチーフとして、かがりは外での寅と内での寅の違いを江の島で指摘した。外で会ったときは優しいのに、家に帰ると違った人になっちゃったみたい、って。本作では恒例のとらやでマドンナがもてなされる場がない。今までの寅は、とらや一家の暖かさの代表としてマドンナに気に入られていた面があったが、本作で個人として自立した(!)、ってことか。あじさい寺に寅が満男を連れてきたのを見て、かがりはちらっと表情を翳らせる。ここには「寅は寅の所属する家の人なんだわ」という嫉妬と落胆がある。寅は旅先ではけっこう大人として振舞えていた。濃い人間関係が生まれそうになったら、無名の旅人としてその場を去れる状況では強い。しかし名を持った個人として剥き出しで女性に対さなければならなくなると、たちまち恐怖に囚われてしまう。そしてシェルターとしての家の代理人を誰か、さくらがだめなら満男でもいい、必要になるのだ。デリカシーのある男はつらいよ、って寅は言うだろうが。 【なんのかんの】さん [映画館(邦画)] 8点(2012-04-21 10:12:12) (良:2票) |
《改行表示》 9.《ネタバレ》 「男はつらいよ」シリーズの中でも最大の問題作と言っていいのではないか。 ロケ地は京都、丹後、鎌倉でいつになく気合の入ったロケーションで美しい。 ただ、それ以上に美しいのがいしだあゆみで彼女の可憐さと妖艶さに見入ってしまった。 誘ういしだに拒絶する寅というもどかしい展開。見ててつらくなってきてしまう。 特に、丹後で寅が寝ている部屋にいしだあゆみが入るシーンはシリーズ屈指の名シーンである。 もどかしさはあるが、詩情あふれる中期の傑作。 【rosebud】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2020-10-17 22:16:29) (良:1票) |
《改行表示》 8.《ネタバレ》 マドンナはいしだあゆみ。 寅さんの悲恋物語。ドタバタもなく、いつもの寅さんとは全く違う雰囲気だったけど、本作は、ある意味で寅さんとは何者か、実はどういう人物なのかということをしみじみと感じさせる素晴らしい一篇であった。寅さんは女性から本気で求められると、受け身になって、すっと自らを引いてしまう。そして自分を「駄目な男だ」と言って一人涙を流す。恋に恋して、恋できない臆病者。それが寅さんなのか。寅さんの流した涙を思い、12歳の満男と同じように悲しくて僕も泣いた。寅さん、あなたはただひたすら優しすぎるのだ。そういう愛があってもいいじゃないか。寅さんが満男に言う。「お前もいつかは恋をするのだろうな。可哀相に」 すると満男が答える。「僕、恋なんかしないよ」と。(10年後の自分に聞かせてあげたいセリフだ) この回に津嘉山正種がいしだあゆみの元カレで登場する。津嘉山と言えば、オープニングでのドタバタ劇専門でずっと登場していたが、ついに本編昇格かと。彼はその後、『真実一路』でも部長役で登場している。その後のOPドタバタはアパッチけんが引き継いでいる。 【onomichi】さん [DVD(邦画)] 10点(2012-04-29 23:26:04) (良:1票) |
《改行表示》 7.《ネタバレ》 第17作の池ノ内青観、第19作の藤堂の殿様、そして本作の加納作次郎。いずれも寅さんとの出会いのシーンがいい。偉い人とは知らずに、小遣いにも不自由してるようなじいさんと勘違いして寅さんが安酒や茶を奢る。この偉い人を演じるのがいずれも大物で、寅さんと実にいい味の間を作り出します。 本作は風情のある京都や鎌倉が舞台ということもあり、落ち着いた雰囲気が魅力のシリーズ中期の良作だと思います。京都や鎌倉の風景とマドンナ役のいしだあゆみの醸し出す雰囲気もとてもよく合っています。 ですが実は本作はシリーズ中の苦手な作品の1つなんです。それは他の作品には無い寅さんとマドンナとの間なんだと思う。丹後のかがりの実家、後半のとらやでの再会に鎌倉デート。寅さんらしさは影を潜め、二人のシーンを観ていると息苦しくなってくる。どうも寅さんを見て味わいたい雰囲気ではないんですね。 ですが、加納作次郎作?の怪しげな焼き物を売る寅さんと「買った!」と手を挙げる加納。バイの最中に2人が再会するラストは何とも粋な終わり方でした。 【とらや】さん [ビデオ(邦画)] 7点(2010-11-07 15:46:13) (良:1票) |
《改行表示》 6.全体的に湿っぽい雰囲気が他のシリーズと違って異色を感じさせる。 茶碗をめぐる人間模様など全編にわたって日本らしい「和」の精神が見られるところが素晴らしい。 茶碗をめぐるおかしさなどで見る者を笑わせながら、ヒロインとの恋路に悩む寅さんの悲哀が胸を打つ。 寅さんご乱心の場面での早回しなど、過剰とも思える演出によってエンターテインメントを随所に散りばめ、下駄・付け文(恋文)・紫陽花(アジサイ)などの小物を使った工夫も巧みである。 丹後伊根舟屋のどこかうら悲しい漁村風景も味がある。 【mhiro】さん [CS・衛星(邦画)] 7点(2010-06-18 23:08:43) (良:1票) |
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《改行表示》 5.《ネタバレ》 私は人生ってのは「出会い」と「タイミング」で決まると思っている。それだけ映画における出会いのシーンというのは重要に感じているのだが、冒頭の寅さんと片岡仁左衛門の出会いのシーンを見て、「こりゃ奇跡だな」と思わず呟いてしまった。 <追記>14年ぶりに再見。やはり冒頭の出会いのシーンはホレボレする。シリーズ屈指の名場面だと思う。寅さんはこれだけ粋でカッコイイ立ち振る舞いが出来るのに、マドンナ相手には逃げてしまう。そして、本作ではさくらに代わって満男が寅さんのサポート役になるわけだが、マドンナとは『北の国から』の親子じゃないか!で、「おまえもいずれ恋をするんだな、あーあ、可哀想に」という、その後を予見させる名台詞が飛び出す。しかし、寅さんは満男の前で自分の不甲斐なさに涙をこぼすという叔父さんらしからぬ行動をする。結局、寅さんは旅先では自立した優しく気ままな自由人ではあるが、柴又に帰ると家族に甘えてしまうある種束縛された依存的人間であるというコントラストをマドンナによって暴かれて指摘されてしまう事になる。ここまで寅さんの本性を曝け出させて鋭く見抜いたマドンナは稀有である。 【東京50km圏道路地図】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2006-09-04 02:10:38) (良:1票) |
4.この映画のいしだあゆみって、枯山水のお庭の隅のジメジメした所に生えてる白くて美しい隠生植物みたいな雰囲気なんですよ。ひょろひょろとはかなげなのに実は毒を含んでる、みたいな。他作品じゃ類をみないタイプのマドンナという事で非常に印象深いです。ロケーションも、丹後あたりの入り組んだ入り江の家屋の情景が美しかった。でも・・・、数あるシリーズ他作品と比べて好きかって聞かれると・・・実はそうでもないというのが自分の意見。吉永小百合=歌子マドンナ同様、寅さんが言葉につまって黙りこくってしまうのをみてるのが、多分自分には辛いんだと思います。鎌倉あじさい寺での満男を含んだやり取りとかも、何かもどかしくてスカッとしない。異色作として鮮明に記憶には残るけど、あまり観返したくはない作品のひとつ。 【放浪紳士チャーリー】さん [DVD(邦画)] 7点(2006-07-08 13:00:38) (良:1票) |
3.男はつらいよ全48本の中でも上位に入る出来栄えだと思っています。少なくともシリーズ20作目~29作目の中ではダントツのナンバーワンです。昔、初めて観た時は普通に面白い作品というイメージしかなかったけど、この度、改めてDVDで借りてきてもう一度、観てみると、この作品はいしだあゆみ演じるマドンナと寅さんの大人の恋愛映画としてかなりの秀作だということに気がつくわけです。いしだあゆみの大人の女性としての、情念みたいなものが感じることが出来、マドンナとしては浅丘ルリ子演じるリリーとは対照的なタイプの女性で、そんな女性にまさかという展開のデートに誘われる寅さんが鎌倉でのデートでの場面での可笑しさ、哀しさが何とも言えない哀愁というものを感じられずにはいられまん。そういう意味でも最初に観た時よりも味わい深く、色々考えさせれる作品として好きな寅さんベストテンからは絶対に外せません。 【青観】さん [DVD(字幕)] 9点(2005-12-05 22:08:27) (良:1票) |
2.《ネタバレ》 いしだあゆみがマドンナだからか、いつもより暗い雰囲気。でも、シリーズの中ではけっこう好きだ。寅さんとかがりのデートについて行った満男が旅館でかがりと二人で話をしているシーンで、満男が「母さん。」と言い出さないかちょっとヒヤッとした。 (言うわけないんだけどね。) 【イニシャルK】さん [地上波(邦画)] 7点(2005-03-08 01:41:38) (笑:1票) |
1.涙と笑い、そしてシリーズ中、唯一エロスを濃厚に感じさせる作品。いしだあゆみの、フクラハギを、撮るカメラのドキドキするようなエロス! 【ひろみつ】さん 8点(2003-05-22 20:51:30) (良:1票) |