9.スピルバーグの中に潜む,暴力への一種の憧憬が(本作以降顕著になってくる)意識的にしろそうでないにしろ如実に表れたオマハ・ビーチの光景。正直言って吐き気がする。が,戦場で生き残る者と死んでいく者との間を分かつのは,弾丸の多さでもなく,剛勇でもなく,ちょっとした運だけなのだということを教えてくれる意味で,本作は戦争映画として優れていると思う。手を挙げて降伏しようとしたドイツ兵をはずみで撃ってしまったりとか,弾が尽きたらヘルメットをぶつけ合うといったシーンは,実際の白兵戦らしいというか,ああなるんでしょうね。私は今まで戦争というものを斜に構えて考えていたが,これを観てただひたすら恐ろしいと思った。あんな地獄は嫌だと。それは誰しも当然ではあるが,その至極当たり前のことをこれほど直截に表現した映画は,あまり記憶にない。だからこそ,一人の兵士を戦場から連れ出す命令を出した政府と,その血みどろの戦場の中任務に赴く登場人物達との乖離が浮き彫りになる。感傷とか意義などとはまったく無縁のところで,戦争という鋼鉄の歯車がひたすら人間の生命を挽き潰していく。そのことが恐ろしい。なお冒頭とラストではためく星条旗について辛口の意見が多いですが,あの逆光の中で色を失った星条旗には,少なくとも私にはアメリカ主義的な意図は感じられませんでした。 【Roxy】さん [ビデオ(字幕)] 8点(2005-12-29 12:53:17) (良:2票) |
8.「大勢の犠牲の上に今はある」と言いたいのだろう。ヨーロッパ統合の際にEUの代表の誰かが、「血塗られたヨーロッパの歴史は終わりを告げ、新しいヨーロッパが始まる」と演説で話していたが、つまりはそういうことだ。日本もヨーロッパもアメリカも中国もほんの半世紀前までこの映画で描かれているような壮絶な殺し合いを続けてきたわけだ。殺人という行為が社会の本質的な部分から隔絶された今、この映画にある内容はあまりにもショッキングだが、結局のところ、これが現代社会のルーツにある。これらの殺戮行為の犠牲の上に作られた今、この社会を生きている我々は、死んでいった者たちへ顔向けできるような有意義な人生を送っているのか?そういうことを問い掛けているのだと思う。 【ぴゅーた】さん 8点(2003-01-05 00:41:54) (良:2票) |
7.なんでもない台詞やシチュエーションが心に残る・・・。冒頭の上陸用舟艇のシーン。船酔いで吐いてるヤツら。そんな中、装甲車を積んだ一隻が沈む。作戦は中止だろ?え、中止しないの!?生兵(?)だけで砦を陥とせってか!!うーん・・・組織的にはオレの会社と一緒じゃ。 【シュールなサンタ】さん 8点(2002-10-05 11:38:26) (笑:2票) |
6.冒頭のノルマンディ上陸と終盤の戦闘は、とても映画とは思えない、まるで当時の作戦に本当にカメラマンが潜入し撮影したかと思わせるほど、リアルで臨場感あふれていて残酷なものだった。現在の死と一味違った死が、このころの戦争の時代には存在したと思う。本来、死とは尊ぶべきものであるが、戦争では栄光に値するときもある。本作では、栄光の死が見事に描かれていたと思う。また、戦闘中の音楽がなかったことがよかったと思う。BGMとして流すのではなく、戦場の休憩時にレコードで兵たちが流したあの場所はまるで楽園のように思えた。でも、フォレスト・ガンプが戦場でがんばっている姿を思い出すとちょっと笑えた。 【ばっじお】さん [DVD(字幕)] 8点(2006-01-16 14:00:40) (良:1票) |
5.オープニングのノルマンディ上陸作戦の迫力は皆さんが仰るように本当にリアルで怖いです。その後の展開はこの序盤に比べれば地味ですが、自らいつ命を落としてもおかしくない戦地にて、果たしてこの任務に意味はあるのかと自問自答するチームの様子が見事に描かれていたと思います。あと世紀のヒーロー役ではないトム・ハンクスは、この映画のこの役(大戦の中の1人の兵士に過ぎない)では決して必要以上に目立ってはいないし、目立ってはいけない。「グリーンマイル」も同様だったが「物語・脇役を殺さない主役」として、そうした事を全て計算して演じられる第一級スターって中々いない。どうしても自分の存在感を前面に出したがる役者が多い中、彼はこの映画で決してそれをしない。嫌々駆りだされた戦争なのに、教師だった人間が必要以上に兵士らしく見えたらそれこそリアルではなくなってしまう。一般人が突然突き落とされる地獄こそ戦争だと思う。ゆえにこの役にトム・ハンクスを推したスタッフも人選が見事だし、それに応えた彼は本当に凄い。 【まさかずきゅーぶりっく】さん [ビデオ(字幕)] 8点(2005-10-18 16:15:36) (良:1票) |
4.戦争とは死と隣合わせ。それも呆気なく突然に当たり前のようにやってくる。それほどに戦場とは恐ろしく精神状態すらもまともに保っていられない。それを感じさせずにいられないような映画でした。話題となった序盤のオマハビーチの激戦に自分がもしその場にいたら。多分助からないんでしょう。そんな気持ちにさせてくれるこの映画からは痛みを痛烈に感じます。スピルバーグはそういう痛みこそを映像を通して伝えたかったのではないんだろうかと考える今日この頃です |
3.隣りのお姉さんはノルマンディーで逃げ出し(ノルマンディー後に帰ってきましたが)、そのまた隣りのお嬢さん方は最後の方まできゃあきゃあ悲鳴を上げておりましたが、私は何故か、この映画にちっとも心が動かされる事はなく、最後まで冷静な気持ちで見続けていました。なんか、ひたすら納得するばかり。冒頭、ボロボロと死んでゆく名もなき兵士達、でも、本当はそのひとりひとりに名前があるんだという事を以降の物語で描いてゆきます。ひとりひとり、性格があって感情があって人生があって、そして戦争という不条理な世界で死んでゆく・・・。冒頭の国旗と並んだ墓標の意味が、最後には大きく違ってくるのですね。衝撃を受ける事もなく最後までスピルバーグの技巧とメッセージに、ただふむふむ、とうなずくばかりの私でしたが、名画です。もう一度見たいとは思わないですけど、名画です。 【あにやん🌈】さん [映画館(字幕)] 8点(2003-12-22 13:43:47) (良:1票) |
2.残酷な映像をみせられるほど『あぁ、これは映画なんだよなぁ・・』と思ってしまった。これはひねくれて言っている訳じゃなくて素直にそう思った。それはなぜかと考えたら、やっぱりそれは自分が戦争を知らないから。生々しくもげた腕や死に絶える人を見た事がないからそれが果たしてリアルかどうかわからない。それはたとえば9・11の事件だってイラク戦争だって、画面を通してみたときの最初の印象が『これって映画のワンシーンじゃないの?』っていうのだったのと同じ。この映画見た人は『戦争って怖いね。あんな残酷で不条理なことが起こるんだね。』ってもちろん思う。でも同時に『あれって作られた映像なんだよね』っていうのもわかってるから、映画館出て『あ~ぁ、ハラ減った』とか『ヤッベ、あした英語のテストじゃん』などと、おのおのの日常へ帰っていく。そして何より、この映画を見る多くの人もスタッフも出演者も監督であるスピルバーグでさえも戦争を体験してないという虚しさ。リアルを目指せば目指すほどフィクションに近づく気がした。戦争の実態を伝えるためにあそこまでグロいものをみせる必要が果たしてあったのかなぁ。恐ろしいでしょ?見てらんないでしょ?というのを押しつけられて息苦しかった。経験してない以上あくまで“映画”としての戦争映画を作る謙虚さも大切だと思う。これは今までに見たことの無いような生々しい戦争映画。だけどそれは、今までの監督(戦争の時代を生きた人)があえて作りたくなかった、あるいは作るべきではなかったという類のもの。あの戦争を知らない人だからこそ観れる映像。どうしたって戦争の恐ろしさは経験するまでわかんないと思う。ぶっちゃけね。とはいえ、この映画が悪いとは思わないし、こういう映画も必要なのかも知れないとも思う。“火垂るの墓”しかり。戦争を忘れないためにも。この映画、中身がないなんて言った人もいるけど、やっぱり人として、この映画を観て何か感じてしかるべきだと思う。 【ジュモSP】さん 8点(2003-04-28 23:24:54) (良:1票) |
1.戦闘シーンのリアルさが訴える戦争の悲惨さ。それを素直に感じてしまう心情。それはある意味で無邪気な屈託のように僕には感じられる。この映画は戦闘シーンのリアルさと戦闘従事者のある種のヒューマニティという二つの側面を持っているが、その二つの事柄がうまく整合しない、妙な座りの悪さを強く感じるのだ。作者の切実さが僕らを捉える焦点のようなものを欠いている、その硬質性、その薄っぺらさがこの時代の精神なのだろうか。そう思うと妙に納得してしまうのも事実ではあるが。<補足>映画を単なる娯楽としてのみ観る立場から言えば、どうでもいいことかもしれない。娯楽として観れば、この映画はとても面白い。しかし、それが僕らの生きる「ほんとう」を指し示していない限り、娯楽以上の価値がないということも確かなのだ。そう思ってはいけないのかな?でも、そうでなかったら、僕がここで言うことなど何もない。世の中は既に汚れちまった哀しみに満ちている。既にイノセントな立場から言えることなど何もないはずなのだ。本来的な意味でリアルとは一体何だろう?僕らはもう一度、その意味について考えるべき時期に来ているのだと思う。イラクでのアメリカ人虐殺シーンの映像がネットで公開されたそうだが、その虐殺シーンとこの映画の冒頭に描かれる兵士達の殺戮シーンとの違いは何だろうか。また、戦闘ゲームやその手のマンガに描かれる殺戮シーンとの違いは何だろうか?それは、そこに投げかけられる問題の切実さによる。そしてそれを僕らがどのように捉えられるかにもよるのだ。 【onomichi】さん 8点(2001-12-19 00:18:22) (良:1票) |