8.《ネタバレ》 実話をベースにしているということもあり、非常に生々しく描かれている。通常のマフィア映画には、どことなく華やかで金回りがよく、ドンパチをすき好んでいるというイメージがあったが、本作のマフィアはせこくてしょぼい。決して、華やかな世界というわけではないということがとても面白い。作り物のフィクションとは異なり、苦労や人間味を感じられるため非常にリアルだ。 マフィアの実態だけではなくて、潜入捜査の実態もリアルに描かれている。常に限界ギリギリの精神状態にある様をジョニー・デップが非常に上手く演じている。夜間に自分の部屋のモノを突然ぶち壊していたが、そうしたくなる衝動が伝わってくる。いつバレるかと不安な日々を過ごし、いつ殺されてもおかしくない追い込まれた状況に陥る。逃げたくてももはや逃げることすらできず、本物のマフィアのメンバーになり切るために自分自身を殺して、自分の精神までも汚していかざるを得ない。「靴を脱ぐ脱がないという日本料亭でのいざこざ」「船の記事」「自分の知り合いとの突然の出会い」といった断片的ではあるが、そういったエピソードが彼を追い詰めていることもよく分かる。 彼も追い詰められているが、もちろん彼を支える妻もまた追い詰められているのがよく分かる仕組みにもなっている。いつ連絡がくるのかも分からない、イベントがあっても家に戻ってくるのかも分からない、いつ殺されるのかも分からない、いつ捜査が終わるのかも分からない。家族の存在が、ジョー(ドニー)の支えかもしれないが、それほど簡単には支えられるものではないという家族の苦悩も垣間見られる。 また、ドニーとレフティの関係も一つの見所となっている。お互いを信じられないマフィアという世界において強固な絆・信頼性を築くというのは本当に難しいことだろう。純粋なマフィアではなくて、潜入捜査官だからこそ出来たのかもしれないが、こういった矛盾がまた面白い。「お前だから許せる」というレフティの言葉がとてつもなく重く感じられる。本来ならば、マフィアの中では“駒”として生きなくてはいけないが、逆にFBIの中で“駒”として生きており、マフィアの中では“仲間”として生きている。レフティとは親友や親子のような絆を築けたが、FBIではメダルと現金のみという締め括りも皮肉めいている。成果をあげた捜査ではあったが、何かがおかしいと投げ掛けているようだ。 【六本木ソルジャー】さん [ブルーレイ(字幕)] 8点(2009-12-13 22:29:28) (良:2票) |
7.《ネタバレ》 マフィアの世界に偽って潜入してる内に、本物の自分とマフィアの自分との境界線を見失いそうになるという話はよくありますが、他とちょっと違うところは、パチーノが演じるレフティという男の存在でしょう(実際には親分ソニーブラックとレフティを足したような人物がここでのレフティのようです)。そう、この潜入捜査官が主役ではないのですね。うだつの上がらない普通のおっさんみたいな兄貴分がいたからこそ、実寸大の自分を忘れずにいられたのでしょう。奇妙なバディものみたいな、皮肉な話です。結果粛清された兄貴は(実話ではソニーは)可愛がっていた弟分に騙されていた事を知って物凄くショックを受けたでしょうけど、「ドニーに会えて良かった」と。それが強がりだったのか、愛情だったのかそれは誰にも分らない、という話です。アルパチーノが小物チンピラなんて最初はちょっと意外な感じがしたけど、見事に演じていて感情移入してしまいます。もちろんジョニーデップの揺れる心も手に取るようでしたし、最後まで目が離せないドラマでした。お見事。 【ちゃか】さん [インターネット(字幕)] 8点(2023-02-14 12:12:30) (良:1票) |
6.《ネタバレ》 おとり捜査官のドニーはうだつの上がらない兄貴分のために、足を洗うカネを家に隠し持っていた。めったに家に戻らない夫の愛情を信じられなくなっていた妻が、そのカネを見つけて夫を疑う。そのときのドニーの言葉が悲しい。「おれは仕事に殺されて息もできない。でも抜けられない。見殺しにできない。正義の味方気取りで今までやってきた。結果はどうだ、君の言う通り今ではおれもマフィアみたいだ」。若かったころわれわれの多くは正義の味方気取りで世間に出た。そしてその世間からみな抜けられなくなった。そのしがらみのなかで愛する者を見つけ執着する物にとりつかれた。ドニーは任務をやり遂げ、こちらの世界に戻る。戻ることで何を得たか、こちらの世界とはどういうものか。この作品はきっちりそれを問うている。二人の主役も周りのマフィアたちも、全員の演技が冴えわたっている。日本のたけしのヤクザ映画など恥ずかしくなってくる。 【柚】さん [DVD(字幕)] 8点(2014-11-03 15:45:14) (良:1票) |
5.アル・パチーノはマフィアなら大物から小物まで演じれるのがすごいですね。ジョニー・デップは、ハサミ男とかホラ吹き海賊みたいな役じゃなくてたまには本作のような真面目な役もこれから演じていって欲しいです。だがチョコレート工場長はよかった。 【くまさん】さん [ビデオ(字幕)] 8点(2010-07-07 02:55:39) (笑:1票) |
4.《ネタバレ》 なんだか緊迫感に欠ける潜入捜査ものだと思っていたら、テーマは全く別のところにあった。 アル・パチーノとジョニー・デップがおかれたそれぞれの状況をベースに、二人の間に芽生えた絆のようなものが味わい深く描かれている。アル・パチーノへ好意と捜査の本分との板ばさみに苦しむジョニー・デップの演技もよかったが、主役は6:4でアル・パチーノかな…。 大物ぶっているが周囲はあまり敬意を払わず、また大物になりきれない自分の才覚も悲しいかな自覚している壮年マフィア。その自尊心と諦観が入り混じった微妙なニュアンス。自宅でジャージ姿で寛いでいるシーンあたりからぐっと人間味が出てきて、ジョニー・デップがその家庭的な温かい視線や人柄に惹かれていくのが良く伝わってきた。アル・パチーノのラストシーンは悲しいものだったけれど、その態度はすがすがしさを感じさせ、物語を奥深い人間ドラマにしていた。 【アンドレ・タカシ】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2008-08-24 00:01:42) (良:1票) |
3.《ネタバレ》 男の仁義と友情、そして裏切りの物語。ドニーの裏切りを知ったレフティは、最後まで彼に愛を注いだ。うだつのあがらない、へたれギャングだったが本当にダイナマイトガイだった。それに引き換え、FBIは多大な成果を上げたジョー(ドニー)に対して、形式的に表彰をしすぐに場を立ち去る(ちなみに、500ドルというのは、フロリダでの1時間の売り上げとかけていたのだろうか?)。推測だが、FBIはドニーの写真を持って裏切ったのではなく、さらに彼を利用して成果を上げようとしたのではないだろうか。そこには利用するだけのFBI体質が浮かび上がる。ジョーの定時連絡がないことで、FBIが自宅を訪ねたときの奥さんの言葉が全てを象徴している。「夫の生死より規則を破ったことが問題で、あなた達の失点になると」。暴力をふるい、殺しをするギャング・ヤクザの世界を肯定する気は全くないが、人を機械的にみるFBIの冷徹な対応は同じくらい肯定できない。そういった人の大切なものを最後のデップとパチーノの目は、観た人たちに教えてくれている気がした。 【グングニル】さん [DVD(字幕)] 8点(2004-07-17 19:14:19) (良:1票) |
2.《ネタバレ》 まず、ジョニーがFBIのオトリ捜査官を演じると聞いて、ちょっとちがうんじゃないかい?大丈夫かなあ、と不安になったけどオトリだからダークスーツに身を包んで出てくるわけではないので大丈夫でした。 そしてパチーノ、このパチーノはよかった。プライドは人一倍あるのにそれがかえって哀れな冴えない三流マフィアのレフティ。ニセモノダイヤが見抜けないレフティはFBIのオトリが見抜けない。そういや原題は「Donnie Brasco」なのね。 下っ端たちがボスを出迎える場面、自分に声をかけてほしいといわんばかりの表情でボスを目で追うも、ボスはレフティに見向きもしない。どうしてあんな表情が作れるんだろう、あのパチーノのアップがファミリーでの彼の位置を全て物語っている。印象深いシーンでした。 ドニーにとって、レフティは大切な情報源だから彼には逆らわないし従順だ。それがうれしくて可愛くてすっかりドニーを信じてしまう。ドニーのレフティに対する想いは対等な友情なのかなぁ、なんかちょっと違うと感じた。一生懸命になるほどカラ回り、何をやってもうまくいかず落ちぶれていく一方のレフティに哀れみを感じ、同情してしまったんじゃないだろうか。哀れなレフティを騙しているという自己嫌悪もあったかも。正直、FBIに保護されその場を連れ去られていくドニーにほっとしましたね。 私はラストでレフティが「おまえなら許せる」と部屋を出て行くシーンはいらないように思いました。レフティのその後は想像に任せる、にしたほうがよかったんじゃないかな。最後にパチーノの見せ場をつくったんでしょうねえ、たぶん。 マイケル・マドセンは相変わらず凶悪な後ろ姿でした、この人背中からして怖いです、そこが良いです。そして筋トレするジョニーという貴重なシーンも観られました。ジョニーは70年代がよく似合う。 【envy】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2003-12-11 01:46:11) (良:1票) |
1.ジョニー・デップ作品の中ではピカイチ、個人的には一番かな。他人を信じること、それはとても難しいこと。なぜなら、ほんとうに信頼しているのなら、どんなことをされても、たとえ裏切られたとしてもその人を信じ続けなくてはならないから。信頼とは一方通行なもの。「あの人の信頼に答える」というのは道義的には正しいかもしれないが、それは、決して押し付けてはならないもの。「あいつはおれの信頼に答えてくれなかった」と相手を責めたり憎んだりするのは完全な筋違いだ。「金を騙し取ったから」、「浮気してたから」、「犯罪をおかしたから」。この程度で破綻する信頼など信頼ではない。たとえ殺されようとも最後まで信じ続ける、最後のアル・パチーノの背中はそれを私に教えてくれた。 【ガーデンノーム】さん 8点(2003-12-10 11:23:17) (良:1票) |