8.戦友がバタバタと死に、その度に物語が生まれる戦争というおいしい題材を手にした時、映画監督はドラマや哲学を語ろうとします。プラトーン然り、ディアハンター然り、地獄の黙示録然り。しかしキューブリックは本作においていかなる主張もせず、戦争とは何か、ベトナム戦争とは一体何だったのかという断片を切り取ることのみを行っています。かつて「突撃」でベタベタの人間ドラマをやった以上、同じ題材で同じことはやらんという巨匠ならではのこだわりなのか、それとも天才たる先見性の為せる技なのか、ともかく前述の作品達よりも二歩も三歩も先を行った作品となっています。公開当時、あまりのショックから「これは軍隊の非人間性を描いたものだ」と勘違いされた前半の訓練についても、あれは海兵隊の訓練を忠実に再現しただけのものであって、あらためて見ると非常に客観的です。ハートマン軍曹は新兵達の前に立ち塞がる脅威ではあるものの、ヒールを演じているだけということを匂わせる描写がいくつも存在しています。人種差別はせず、クズとして全員平等に扱うと発言したり、「神を信じない」と言ってハートマンに楯ついたジョーカーを「根性がある」と言って認めたりと、決して個人的な感情から新兵達を罵倒しているのではなく、無茶苦茶に見えて実は訓練に必要な言動をとっていることがわかります。海兵隊に集まるのは徴兵された者ではなく、志願して軍隊に入ってきた者達です。そんな英雄気取りの若者を、わずか8週間の訓練で生きて祖国に帰還できるフルメタルジャケットに育て上げねばならない。いったん彼らの人格やプライドを粉々に壊し、真っ白になったところで生きて帰るための行動パターンや思考様式を流し込んでいるのです。ちなみに私が一番驚いたのはトイレの様子で、個室や仕切りはなく、便器がズラっと並んでいるのみというシンプルにも程がある作り。海兵隊はう○こも人と顔を合わせながらするのかと、そこまで徹底したプライドの破壊には心底恐れ入りました。後半は前半と比較すると平凡になりますが、それでも視覚的な見せ場は充実しています。カメラワークが秀逸で、戦場を走る兵士の背中をローアングルから捉える、戦争映画でお馴染みのショットなどは、本作が初めてではないでしょうか?かねてから素晴らしかった音楽の使い方にはさらに磨きがかかっており、こちらはタランティーノに多大な影響を与えたことが伺えます。 【ザ・チャンバラ】さん [DVD(字幕)] 8点(2010-01-28 22:12:56) (良:3票) |
7.《ネタバレ》 残酷な虐殺を見せて非人道性をうたった戦争映画や戦場での死に対する恐怖を追求した戦争映画ではない。殺されることに対する恐怖ではなく、人を殺すことに対する恐怖を描いている。戦争はただの人殺しだとこの映画は語っている。そして人殺しはもはや人間ではない。ラスト、ミッキーマウス・マーチの歌声が響く中での主人公ジョーカーの最後のセリフ「もう恐れはしない」。戦争は終わってはいないのに何故「もう恐れはしない」なのか。人を殺すことに対する恐怖、人間でなくなってしまうという恐怖が、人を殺し人間でなくなったことで消えたということだろう。前半の海兵隊の地獄の訓練は敵を殺す訓練ではなく、人間でなくなっても平常を保つための訓練なのだと最後にわかった。 【R&A】さん 8点(2004-01-05 17:27:01) (良:3票) |
6.《ネタバレ》 人間らしい剥きだしの精神は脆く、戦場では戦えないので、「Full Metal Jacket(完全被甲弾)」にする必要がある。人間性が隠れるまで「Born to kill(生来必殺)」の装甲を施す。その完成形が、前線に向かうジョーカーがヘリで出会、逃げ惑う女子供を無差別に撃ちまくる兵士。「逃げる奴はベトコンだ! 逃げない奴はよく訓練されたベトコンだ!」「簡単さ、(女子供は)動きがのろいからな!」戦場という剥きだしの狂気。そこには正義も主義もない。「単なる殺し」があるだけ。ラストでジョーカーは戦場にありながら「もう恐れはしない」と感じるようになる。フルメタルジャケット装着完了である。皮肉や矛盾をあちこちに散りばめ、戦争の醜さを表現しようとした映画。①”微笑みデブ”は厳しい訓練に耐え、卒業したのにその日の夜に暴走。②鬼教官は、立派に生徒を教育したのに生徒に殺される。③最も優秀なジョーカーが、前線からは最も離れた報道部に配属。④平和のバッチをつけながら、帽子には「Born to kill」の二重性。⑤優秀で勇敢な兵士ほど先に死んでゆく。⑥多大な犠牲を払って得た戦果が、狙撃手一人。歴史に残る業績と皮肉る。⑦敵の優秀な狙撃手がかよわい女性。ジョーカーらは訓練キャンプで女性扱い(半人前)されてきた。⑧女を助けたいが、それが殺すこと。勲章がもらえると皮肉る。⑨戦場の行進で歌うのが、ミッキーマウスマーチ。見る物、聞く物、何もかもが虚しい。「貴様らは蛆虫以下の存在」と言った教官は正しい。戦場で狂気に捕われず、生き残るには、心を黒く塗る(Paint it black)しかない。不満点:訓練キャンプの主人公のデブが死んでしまったので、前半と後半で別の映画になってしまっている。彼はジョーカーと一緒に戦場にいくべきだった。 【よしのぶ】さん [DVD(字幕)] 8点(2009-10-17 23:36:48) (良:2票) |
5.《ネタバレ》 フルメタル・ジャケットとは硬い金属で被甲された弾丸のこと通常は無垢の鉛、柔らかい金属だと着弾のダメージが大きい(体内で破裂する) 被甲弾は戦争用である フルメタルは強力だと思っている人が多いと思うが実は反対で被甲されてると貫通力が高いので兵士の戦闘能力だけを奪う人道的(!)な弾丸である そういう意味では非情に深い良いタイトルだ 海兵隊の訓練所のパートと実際の戦闘と二部仕立てになっている 訓練パートで出てくる教官は強烈 いじめられるデブ新兵もなかなかイイ トイレにしきりが無いのはびっくり今もそうなのだろうか? 訓練パートのラストは衝撃的だ 訓練のためにあえて憎まれ役になる軍曹は可哀想だった この軍曹という階級が常に報われない職業であることをすべてのアメリカ人は知っているが、それを見る私達が知っているか否かによってこの物語の捉え方がまるで異なるであろう ベトナムパートではムービースタッフが戦場の兵士にインタビューをして戦闘シーンを「サーフィン・バード」(往年のクラシックロック)に乗せて長回しで撮るシーンがあるが音楽も含めて忘れ難い名シーンだと思う ヘリで無差別に地上を騎射するシーンなど衝撃的だが常にドライ ラストシーンもミッキーマウスの歌を歌いながらの進軍とかスラプスティックな狂気を感じさせる ベトナムだけど市街戦なのはハートロッカーなどでもパクられているとおもった、それだけ名作だということか 言葉が汚い、さすが米語あらためて英語って汚い言葉のオンパレードだな 戸田奈津子が訳したらちっとも面白くないだろう(笑) ラストは主人公が撃たれた少女狙撃手に執着するのに若干の違和感を感じたが、その少女娼婦との濡れ場がカットされたと言う話を聞いてなるほどと思った それならば濡れ場があった方がラストシーンがわかりやすかっただろう 【にょろぞう】さん [ブルーレイ(字幕)] 8点(2014-01-27 21:20:53) (良:1票) |
4.ハートマン軍曹の人間の尊厳を粉々に踏み潰す罵詈雑言から、戦場から生きて親元に帰したい、その為には上官の命令には絶対服従して個人的に何の恨みもないアカの他人を躊躇なく殺さねばならない、その為には人の心は捨てなきゃならん、という確固たる思いを感じました。微笑みデブ君がこのまま戦場に出れば自身もまわりの者も死んでしまうという考えが及ばなかったのが残念です。一見ありきたりな戦闘シーンも軍曹に「sir yes sir」と絶叫していた姿を重ねると合法的な殺人の不条理さに胸が詰まります。 |
3.もうハートマン最高! 最強のサノバ○ッチ野郎である(当然これは彼にとっては褒め言葉であろう)。徐々に狂っていくほほえみデブも素晴しい。それに比べると主人公のジョーカーはちょっと影が薄いです。前記の二人が大活躍する前半は最高に楽しいのだが、後半のベトナムが割と普通な戦争映画っぽく感じてしまいちょっと残念。 【とかげ12号】さん [DVD(字幕)] 8点(2005-10-26 23:39:38) (良:1票) |
2.《ネタバレ》 強烈な戦争映画でした。後半の少女の振り向いた時の顔が強烈に焼き付きました。 |
1.ラストシーンが印象的。 【ユーヤ】さん 8点(2000-06-27 16:18:27) (良:1票) |