4.次女の保険金に当然のようにたかり、下卑た男は出入りし、長男は頼りない。末娘高峰は兄のすね毛にさえ嫌悪を感じる、そういう一家のネットリ感を丹念に丹念に描いていく。どうしてそれが不特定多数の客の鑑賞の対象となる映画作品になるのだろう。次姉の死んだ亭主の妾のところに談判にいくエピソード。川や小さな橋のたたずまいが懐かしいということもあるが、この二人の味も素っ気もない会話もいいんだよ。ねちねち反撥し合いながら一つの共同体を作ってしまっている家族というものの、肯定でも否定でもない描写。これの対比として下宿人だった女性がいた。あまり深く立ち入って描かれてはいなかったけど、一人でやっていく厳しさと爽やかさが置かれる。あと下宿先の兄妹の睦まじさ(夜、光が漏れているさま)も、比較としてある。でも彼らは主人公の家族のネットリのリアリティを高めるために、デッサンされただけなのかもしれない。これらを倫理的判断を下さずにただ並置していく。普通の映画だったらちゃんと次女が見つかるところまで責任持つだろうが、成瀬はそんな分かりきったところにこだわらない。作中の言葉を使えば「ずるずるべったり」の、糸を引いてるネバネバを、なぜか不潔感なく描ききった映画ということだ。大人になった高峰秀子の戦後の成瀬作品はまた車掌さんから再スタートし、日本映画の黄金時代を築いていく。 【なんのかんの】さん [映画館(邦画)] 8点(2012-10-16 09:41:21) |
《改行表示》 3.《ネタバレ》 『めし』は駄目だったが、これはよかった。父親の違う兄妹が入り乱れてゴチャゴチャなのですが、主人公の清子がすがすがしいので、気分が悪くなることもなく見られました。清子とはよく名付けたものです。次姉三浦光子の存在も大きい。彼女がいるから、人物間のバランスがよくとれているのだと思います。金をたかって喧嘩ばかりしているきょうだいでは、こちらもしんどくなりますから。 現状を変えようと下宿した清子。お隣の根上淳・香川京子兄妹が、それまでのきょうだいへのアンチテーゼとして生きています。ピアノの使い方がみごとで、斎藤一郎の音楽は最高。後味もさわやかで、清子の人間的成長が端的に表されているようです。当時の東京の街並みが見られるのも嬉しい。 【アングロファイル】さん [地上波(邦画)] 8点(2012-01-03 20:35:46) |
《改行表示》 2.ある人が成瀬監督の映画を、どこから始まってもどこで終わってもおかしくない映画と言っていたのを思い出す。この映画にしてもしかり、父親が違う姉妹と兄という環境に至った経緯にさほど深入りすることもなく始まり、この映画の中で起こったいろいろなことの結末が描かれないうちに終わる。淡々としていて平凡ではなく、一見どろどろとしているようであっさり描かれる。それが魅力の成瀬映画、大変好きだ。 中北千枝子演じる愛人が出るところに出てと言っていたが、どうなったのだろう。清子さんの引っ越し先の隣人香川京子の兄を演じる根上淳とどうなっていくのだろう。などの余韻を残しながら終わるのが実に良い。 ところで2階に住んでいた娘さんが聴いていたレコードの曲と隣人の兄妹が弾いていたピアノの曲は同じに聞こえるが何という曲だろう。映画のBGMとしても流れてロマンティックな雰囲気を醸し出している。実に印象的。 【ESPERANZA】さん [DVD(字幕)] 8点(2011-08-05 11:15:45) |
1.《ネタバレ》 一番いい子で通ってきた清子が、言いたい事を言って楽になったような感じが面白かった。一人暮らしを始めて、あの家から解放された清子だからこそ、お母さんに優しくできたのかな?。ずいぶん嫌な話をしてたはずなのに、あっという間に笑顔にさせられる。まるでマジックを見た気分。でも決して強引ではなく、自身の経験からも「あるある」と思える内容だったのがまた素晴らしい。 【リーム555】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2011-06-15 18:02:44) |