6.《ネタバレ》 「許されざる者」と同様、正義など曖昧でいい加減なものだということでしょう。家の中でも一番かわいがっていた娘を殺された父親の怒りや喪失感から物語はスタートしますが(幸せだった日常と、突然それが壊された衝撃を見事に描写したイーストウッドとショーン・ペンの実力には脱帽なのです)、見ている私たちはここでジミーに目いっぱい感情移入し、「必ず犯人を殺してやる」と娘の遺体に誓う父親の決意に賛同します。しかし彼は誤った相手に復讐をしてしまう、しかもそれはかつての親友であり、家族ぐるみの付き合いをするデイブだったという絶望的な展開を迎えます。では、ジミーは間違っていたのか?最愛の娘を殺した相手への復讐心は、親であれば誰もが持ちうるものです。また、犯人に対してジミーが何をするのかをわかった上で、デイブの妻は「うちの夫が犯人です」と告白し、さらにデイブは警察からマークされ、問い詰めると意味不明なことを言い出す状態。少なくともあの夜、あの場で、デイブを犯人だと決め付けたジミーの判断は妥当なものだったといえます。しかし結果としてジミーはとんでもない判断ミスを犯してしまった。人間は神様ではないから、わかった気でいても真実のすべてを知り得ないし、そんな脆弱な認識を基礎に人の生死を決めると、いつか取り返しのつかないことをやってしまう。いかに正当な理由を持つ者であっても、過ちは犯してしまう。人が人を裁くこと、善と悪を区別することがいかに難しく、不確かなものであるかをこの映画は説きます。監督もまた、物語の登場人物に善悪の色づけをすることなく、すべての生きざまを淡々と描いていきます。。。と、ここまでは「許されざる者」と同一の主張なのですが、さらに無情感を押し出したのがラストのパレードです。自分の誤解が原因で夫を失いながら、その現実を受け止めきれずに人ごみの中に夫を探す哀れなデイブの妻。一方、事件が解決し、家族と共に新たな生活をはじめようとするジミーと、夫婦の絆を取り戻したショーンは、そんな痛ましい姿が目に入ることを意図的に避けようとします。恐ろしく冷酷でありながら、人間というものを鋭く描いた場面ですが、ここで唯一デイブの妻と目を合わせるのがジミーの妻です。夫の過ちを受け入れ、kジミーを後悔から立ち直らせた彼女は、夫を信じ切れなかったデイブの妻に対して勝者のまなざしを向けます。ここは本当に怖かったですね。 【ザ・チャンバラ】さん [DVD(吹替)] 9点(2009-12-22 20:40:07) (良:3票) |
5.言うまでもないが、映画とは虚構・嘘んこである。だからこそ時に観客は、画面の中の犯罪者やアウトローに対して共感したり憧れたり愛したりできる(そうじゃなかったら任侠モノの主人公なんてみんなただの大量殺人犯ということになっちゃうもんね)。で、この作品、僕は登場人物の誰にも共感は出来なかったけれど、まるで現代のアメリカを舞台にしたギリシャ悲劇のような物語に対して「共鳴」はした。クリント・イーストウッドは各々の登場人物の行為や過ちを「正当化」しているのではなく「赦し」を与えているのだ、と思う。ただしこれは「オッケーオッケー、許すよ~ん」という類のものではなく「お前の過ちは、それを一生背負って生きてゆくお前のものだ。何をすべきかは、自分で決めろ」という、ある意味罰せられるより残酷な「赦し」だと思う。僕はただただ、この重厚な物語とそれを支える名優達の演技に圧倒されました。 【ぐるぐる】さん 9点(2005-02-16 14:01:06) (良:3票) |
4.殺人事件が絡んでいるので、サスペンスと勘違いして観るとピントがずれるでしょう。 自分の殺した男の息子が自分の娘を殺してしまうという悲劇の連鎖という意味はあるけど犯人なんてどうでもいいのかもしれない。 後味が悪さはあるが、人生の不可思議さ、人間としての弱さ、哀しさ、愚かしさ、業の深さを描いているので安直なハッピィエンドには終われない。 唯一の救いは、ショーンが妻を失いかけているその時、妻が出て行ったのは自分にも原因があったという現実を直視できたことではないのか。 人生の苦しみという現実を直視できない人々が数多く登場する。 ジミーは元妻の死に立ち会えない悲しみをただのレイを殺すことで、娘を失った悲しみをデイブを殺すことで慰めようとしている。 アナベスは夫がやったことに対して、「家族のためにやったこと」と現実逃避をし、セレステが変なことを言ったから責任を転嫁する。 セレステも夫と向き合うことができずに、疑い続け、信じられず、「殺したのは夫かも」と苦しみをジミーに解決してもらおうとしている。 デイブは少年時代の想像を絶する痛みから逃れることが出来ずに、現実とは向き合えずにいる。 ジミ-が最後にデイブを見たのはいつだとショーンに尋ねられた時に、子供時代に連れ去られた時を思い起こすシーンやデイブが夢や青春を失ったと告白するシーンから象徴されるように主題は少年時代に受けた苦しみは決して消えることなく、大人になってもその苦しみから逃れることは出来ずに襲い続け、それは被害者だけでなく、その周りの人々にも大きな影響を与えるということだとは思うが、登場人物を見ると現実を直視できない人間としての弱さを感じずにはいられない、ラストのパレードでの父親がいなくなり深い悲しみを抱えた少年がどういう人生を送るのかと考えずにはいられない。悲しみは続いていく…ミスティックリバーはジミーにとっては罪人の罪を洗い清めてやる死体を沈める河なのかもしれないが、自分にとっては人生こそ不思議な河のようなものかもしれないと感じた。俳優の演技に注目が集まっているが、ショーンペンの娘を失った悲しみを最大限に放出するシーンや喪失感、苛立ちを抱えた演技。ティムロビンスの過去の呪縛から開放されることなく、苦しみと怒りを抱えながら抜け殻のようになってしまった表情や演技は素晴らしいとしか言いようがない。 【六本木ソルジャー】さん 9点(2004-06-25 14:59:27) (良:3票) |
3.《ネタバレ》 イラク戦争を起こしたアメリカにとってはまさにタイムリーな映画。この映画を見て不快感を持たなかった人にはこの映画は何の価値もなくなるでしょう。暴力に継ぐ暴力、そして力のあるものに対する嫌悪感を抱かせる事がこの映画の真の目的なのです。ジミーは典型的な「アメリカの男」を体現しており、デイブはその逆なのもそういった皮肉によるものです。結局、ジミーに家族を幸せにするために罪の意識にさいなまれながらも生きていかねばならないという重荷を背負わせる事で単純なバッドエンドともいえない微妙なラストに持って行っているところがまた素晴らしいです。ジミーの奥さんの「あなたにはあと二人娘がいるのよ」という言葉に、彼女がジミーに前妻のことを忘れさせようとする独占欲の強さを感じたりもしました。それと、デイブを中心にこの映画をもう一度見直してみてください。彼は誘拐されて以来、死人のようでした。そして、彼は少年に対して性的関心を持つ人間になってしまい死んでしまうのです。ラストでデイブ以外の夫婦はそろっているという構図をこれで理解できる人もいるのではないでしょうか。劇中で本当に3人が再会できたシーンがないのも興味深かったです。 【マイカルシネマ】さん [映画館(字幕)] 9点(2004-11-30 23:30:17) (良:1票) |
2.《ネタバレ》 あの時車に乗ったのがもしもお前だったらという言葉が何とも切ないです。幼少時の出来事がきっかけで人生がどこか狂ってきた、それだけにそういうことをするような輩は許せないと己の正義を示したティム・ロビンス。しかし、ストーリー展開上、ティムのあの夜の行動は謎のままで、映画を見る側も、映画の中の人物も彼のもどかしい悩める姿を見てやっぱ犯人なのかなと思わせるとこは憎すぎます。またあの主役3人もそれぞれ違う立場なんだけど、ほんとうまく感情を表現してると思います。そしてあの真犯人、悪意なき犯罪という何ともいえないやり口でまんまとやられました。ところで、終始、善人刑事のケビン・ベーコンは新鮮。いつもどっかで悪さしますから。ショーン・ペンの怒りの報復行為は誤ってたけど、誰も責められないでしょう。あの密告奥さんが悪いんです。悩める男、ティム・ロビンス、素晴らしいよ、アンタ。 |
1.《ネタバレ》 とても痛くて切ない映画です。あの時からもう友は友でなくなってしまったんですよね・・・そしてデイブの死はあの時から決まっていた。一つの無理やり封じ込めようとした事件がある事件をきっかけに息を吹き返してしまった。これはショーン・ペンに同情というより皮肉な流れにって感じですね。 【とま】さん 9点(2004-03-01 22:26:35) (良:1票) |