4.イーストウッド作品だけに過剰な期待はしないようにと思ったが、よだれもののキャストにやっぱり期待して観た。裏切らなかった。最初から最後までたっぷりと「映画」を堪能しました。3人の微妙な関係を演じた役者も素晴らしかったが、必要以上に語らずに人間を描いたイーストウッドに脱帽です。抑えた演出から一転、緊迫感をあおる演出も冴えていた。例えば、教会と殺人現場という「幸」と「不幸」が同居したシーン。例えば、事件の全容が観客に明かされる、二人の容疑者を何度も切り替えて見せるシーン。全体を支配する「静」と新たな動きをみせる「動」のバランスが絶妙。賛否両論のラストですが、ジミ-の妻の言葉は、一度足を洗ったジミ-の復活、ジミ-ファミリー(ギャングやマフィアで使うところのファミリー)誕生を意味するものであって、サングラスをかけてパレードを見るジミ-はまさに暴力の世界に返り咲いた親分を彷彿させるもの、と感じました。つまり暴力が暴力を生むという負の連鎖を象徴するシーン。背中の十字架は「十字架を背負う」という意味だろうか?それもあるだろうが、神を信じる者の殺人という現実に、私は宗教大国アメリカにおいて、神を過信してはいけないというようなニュアンスで受けとりました。この非情な世界は神ではなく人間がつくりあげたものというある意味現実主義的な考えのもと、どう生きていくかもそれぞれが考えていかねばいけないという。前年作品『ブラッド・ワーク』でも十字架は二度(猟奇殺人現場の窓から見える光る十字架と被害者のイヤリング)出てきます。『ブラッド・ワーク』以前だと主人公が言葉で語っています(くわしくは書きませんが)。 ラストの重々しさに賛否分かれるのも解かります。でも不条理な世界を不条理だと言って終わらせる映画はたしかに納得はできるが、不条理な世界を見せるだけで終わるこの映画のほうが考えさせられるような気がしません?人間を描くと重い作品になってしまう、これも現実です。 【R&A】さん 8点(2004-09-01 14:55:43) (良:7票) |
3.俳優としての才能と監督の才能と言うのは、当然別な分野なんだが、イーストウッドの場合はそういう議論は無意味だな。彼の監督としての力量とセンスが感じられる作品だ。特に最後のパレードの場面。この蛇足とも思える何気ないシーンに、強烈な主張が感じられる。運がいい奴不運な奴、偶然に翻弄される者。弱い者は何かにすがり、理不尽でも力のある者が生き残っていく。正義は気まぐれだ。これが人生、これが人間社会というものだ、と。見事だね。所々、未熟な点も見受けられるが、敵ながらアッパレ。恐るべし、イーストウッド。(スコセッシ談) 【パセリセージ】さん [DVD(字幕)] 8点(2005-05-25 11:58:18) (良:3票)(笑:2票) |
2.本作は“犯罪もの”のスタイルをとってはいるが、所謂その犯行の手口や犯人探しといった事よりも、ある殺人事件に端を発した濃密かつ緊密な人間ドラマにより焦点が充てられている。そういう意味から敢えてこの作品をジャンル分けした場合、“幼な馴染みもの”に“トラウマもの”がミックスされたものと言える。で、平たく言えば、内容的には決して珍しくもなく、かつて何処かで観た事のあるような印象をすら感じられ、ストーリーラインそのものはいたって他愛無く、それらだけを取り上げれば、とりたてて特別な作品だとは思えない。それは、如何にも安手の犯罪映画といった趣であり、しかもその描き方は極めて通俗的ですらある。で、そこからイーストウッドだからこその高い支持ということが汲み取れる。彼の作品の一つの特徴は、決して奇を衒うことなく、評論家ウケするような技巧にはしる事もなく、ましてや大向こうを唸らせるようなケレン味などとはほとんど無縁の、むしろ誰が観ても解かり易いほどのオーソドックスさこそが身上なのであり、その純朴さが多く支持される理由なのだと思う。それにしても本作でのS・ペンの小悪党の極み!(その何という凄味)そしてT・ロビンスの人生破綻者!(その何という曖昧な性格付け)といった役柄は、彼等の演技のいつもながらの得意分野でもあり、まさに本領発揮といったところ。が、彼等以上に惹かれるのはK・ベーコンの従来のイメージを覆した演技である。覆したと言ってもそのアクの強さと万年不良青年ぶりは不変だが、幼馴染みながら両者とは疎遠になっているという微妙な距離感を感じさせる演技は見事だった。ただ前者二人に対しての、「キャラに合った演技を当然のように演じるきることは、なかなか評価され難い」というイーストウッドのコメントには重みを感じるし、彼等の演技力を最大限に引き出した監督としての手腕には、ますます円熟味を増してきたと言える。人間とは根源的には“変わらない”“変われない”ということを、名前を悪戯書きさせることで、彼等の性格とその後の人生を一瞬にしてシンボリックに表現してみせた冒頭の歩道板のシーンなどは、彼のキャリアの中でも最高の仕事だと言えるのではないだろうか。川の流れのように人々を呑み込んでゆくパレード。その晴れやかさ、華やかさの両岸に様々なドラマがあり、秘密があり、謎がある。これもまた見事なエンディングである。 【ドラえもん】さん 8点(2004-02-11 16:44:50) (良:5票) |
1.川の流れがそうであるように、時間の流れもまた不可逆なもの。 起きてしまった出来事は、もう2度とやり直すことは出来ない。 人生はその連続だ。間違いのない人生を送る者などいないだろう。 だから私は、「ミスティック・リバー」の登場人物たちの人生に共感する。 彼らは、そうせざるを得なかった。私はそれをただ受け止めた。 善悪で裁くことは、敢えてしない。 取り返しのつかない過去は、誰の中にもある。できることなら私も、その 淀んだ暗闇を川の底深くに沈めてしまいたいと願う。 それは弱さだろう。目を逸らさずに真直ぐ見つめたい。 【337】さん 8点(2004-07-21 18:59:50) (良:1票) |