9.ごくたまにだが、その作品をビデオで上映することで、作品そのものが風景の一部となり、あるいは自分がその風景に溶け込んだまま、静かに時間だけが通りすぎて行くような映画がある。自閉症の弟は他人との距離感を知らず、太りすぎた母親は自分の力で起き上がることもできない。世間とはまったく違う時間を生きる一つの家族が、この映画の中で風景として、ただ淡々と時の過ぎるのを眺めている。欠陥家族と呼んでしまえばそれまでだが、ギルバート・グレイプはこの家族を家族として受け入れ、愛し、力まず淡々と毎日を送ることで自然に家族を支えている。苦労話は尽きないだろう。彼の人生は辛く惨めなものだろう。それでも必要以上の悲壮感をこの作品が与えないのは、彼が確固とした自我を持ち、絶望もせず行き過ぎもせず、一日一日をキチンと積み重ねているからだ。人は環境を選べないが、環境は人を殺せない。人間として、自分に責任を持ち、与えられた環境を受け入れて行くことがいかに幸福なことであるかを、この映画は非常に控えめなタッチで伝えてくれる。ラッセ・ハルストレムの作品は、いつでも清潔な極上の干草の香りがする。この作品もまた、映像の形を借りた一つの詩なのだ。 【anemone】さん 8点(2003-12-03 23:32:29) (良:4票) |
8.生きていくうえでの痛みを乗り越えていくためには想像以上のパワーが必要になる。夫が自殺したら体重200キロを超えるまでバカ食いするのも当然だ。その重みで家が軋むのも、そこに住む家族の生活が歪むのも当然だ。今にも床が抜けそうになり、補強して何とか持ちこたえてる。 一番印象に残ったのはあの母親が留置場の息子を取り返しに行くために7年ぶりに外出する場面。彼女が外出して、ベッドで眠るために二階に登った辺りから、家族全体が回復し始めたように思う。彼女の死が家族にとって都合が良すぎる、と感じる人もいるだろうけど、もし彼女があの後生き続けたとしても、家族の足手まといにはならないようにそれなりの努力をしたと思う。あのとき彼女はすでにそれまでの彼女とは違っていたはずだから。ほんとうに家族を解放したのは彼女の死ではなくて、彼女の生への意志だったはずだ。 この映画はギルバートの心に背負った重荷を少しずつ捨てていき、歩いていけるくらい身軽になるまでを静かに描いたものなんだろう。終盤は冒頭をなぞるようなエピソードが多いが、それだけに確実に何かが変わったこと、それもいい方向に変わったことがわかる。死ぬために生きているような生活から、生きるために生きる生活へ。映画全体に、苦悩する登場人物たちをゆったりと見守るようなやさしい時間が流れていて、鑑賞中何度も泣きそうになった。 【no one】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2005-07-05 13:20:06) (良:3票) |
7. ありゃま、どなたもディカプリオ、デップ、J・ルイスって、そればっかり…誰もラッセ・ハルストレム監督のチョット真似できない鮮やかな演出には触れていないの?傑作「マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ」に続いてハリウッド進出後の監督作で忽ちレオナルド・ディカプリオ、ジョニー・デップ、ジュリエット・ルイスの持てるポテンシャルを存分に引き出した功績はもっと称えられてもイイのでは?と個人的には思うけどナァ…。そもそも俳優ってのは監督次第で途轍もなく光りもするし、逆に全く冴えなくもなるモンなのさ。時にユーモラスに、時にシリアスに緩急織り交ぜつつ、何とも心温まる作品に昇華させたハルストレム監督の見事な手際を称えて…8点! 【へちょちょ】さん 8点(2003-01-30 05:29:09) (良:3票) |
6.ミスチルが録画したのはこの作品ですね。大昔に見た「大草原の小さな家」のような、健気に生きる家族にトラブル続出みたいな話ならイヤだなと思って避けていたのですが、案外ほのぼの系でした。どちらかといえば、やはり大昔に見た日本のATG映画から熱気と湿気とエロを削ぎ落とした感じ。世間的には誰も関心を払わないが、本人たちにとっては一大事という私小説的な悲喜劇でした。劇的に何かが変わるわけではなく、どこまでもナイーブなところがいい。 例えばジョニー・デップが父親について話し、ジュリエット・ルイスが「似た人を私は知っている」と答えるシーンなんて、何気ない会話のようですがけっこうグッと来ます。そこまで2人の距離が近づいたというか、慈愛に満ちているというか。 邪道ながら、ジョニー・デップの「シザーハンズ」は3年前の作品、ジュリエット・ルイスの「ナチュラル・ボーン・キラーズ」は翌年の作品。カルトな作品に挟まれて奇跡的に交錯したのかと勝手に想像すると、また感慨深いものがあります。 【眉山】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2019-05-09 02:39:35) (良:1票) |
5.夢を持つことは素晴らしい。青年は夢に向かって進むべきだともいう。だが本作の主人公は違う。きっと彼にも夢はあっただろう。何もかも捨てて夢を追う選択肢もあったはずだ。しかし彼はそれを選ばなかった。知的障害のある弟、病的肥満の母親が彼の足かせになったのだ。昨日と変わらぬ今日を生き、今日と変わらぬ明日を生きる。その繰り返しの毎日。そんなある日、旅の途中の少女と彼は出会った。自由に生きる少女。彼女に惹かれたのは必然だったのかもしれない…。彼女との出会いが、彼の心を少しづつ自由にしていく。だからといって彼の足かせが無くなる訳ではない。これからも現実と折り合いをつけて彼は生きていくのだと思う。ただラストシーンの彼の笑顔を見ていると、きっと今日と違う明日が待っている。そういう気がしました。 【目隠シスト】さん [DVD(字幕)] 8点(2006-04-20 23:26:53) (良:1票) |
4.(ちょっと長文) グロテスクで悲惨、そして死に魅入られた獄中の様な日常から人間の生きる意味を浮かび上がらせる、爽やかな人生賛歌。原作・脚本のピーター・ホッジスは、まるでジョン・アーヴィングの小説並の完成度でこの物語を紡いでいる。この映画には不要な人物がどこにもいない(写真だけしか出てこないグレイプ家の長兄にさえ重要な役割が与えられている)。不要なエピソードが一つも無い。だからもちろん不要なカットも無い。ラッセ・ハルストレムも撮るべくして「サイダーハウス・ルール」を撮ったんだなぁ、と納得。アーヴィングが忙しいんならホッジスに脚本を任せ、ハルストレムと共に既存のアーヴィング映画を全部リメイクして欲しい。その後、新作にもトライして欲しい。そう思った程、ずば抜けた出来の映画でした。それにしても、きっとジョニー・デップやレオナルド・ディカプリオが出てなかったら、この地味な作品がこれだけの人にレヴューされることも無かったでしょう。そう考えると、スターってホント重要ですよネ、8点献上。 【sayzin】さん 8点(2004-09-12 00:04:55) (良:1票) |
3.いや~良かったです!こういう淡々とした映画って大好きです。ギルバートと、それに関わる人達の心の葛藤を、ただ淡々と描いているだけなのに、こんなにも感動してしまうのは何故なんだろう。。。もうジョニー・デップに感情移入しすぎちゃってヤバかったです…。そして、もう私が書くまでもないのですが、やっぱりレオナルド・ディカプリオが良かったです!すごい演技力にただただ圧倒されてしまいました。ハデなアクションや血が多い映画が溢れる中、こういう映画の存在ってとても貴重だと思います。若い内に出会えて良かった★ 【Ronny】さん 8点(2004-05-12 00:26:17) (良:1票) |
2.8年ほど前に見た時は、まったく感動しなかったし、デップのエラもすごく気になった。多分、その頃の私は子育てに忙殺されていて、別世界に連れていってくれない映画なぞ見る価値はないと思っていたんだろうな。「主演の人、顔が濃くて嫌!」とか文句言いながら.....。ところがびっくり。今回見たら、もうどっぷり。自分が家族を築いてきたことで、少しは判ってきたこともあるってことなのかな。それに、J・デップが本当にいい。もう、抱きしめてあげたいくらい。年とるって、いいこともあるのね。守備範囲も広くなるし。 【showrio】さん 8点(2004-04-16 22:49:52) (笑:1票) |
1.全ての物は少しずつ変わっていく。この映画を観ての唯一の感想。薄暗い画面で、淡々として、つまらない映画だと思いながら見ていた。なのに、いくつかのシーンでボロボロ涙が出た。胸が詰まって、というんではなく、気付いたら泣いていた。こんな事は初めてです。 【C-14219】さん 8点(2003-09-24 18:34:35) (良:1票) |