4.目をつむり、胸に自らの思い出を丁寧に描き出す。それはひどくおぼろげで、淡く、一瞬経つとすぐに消えていってしまう・・・。岩井俊二監督の映像にはそれと似た優しさがあるような気がする。冬の終わりを告げる朝の、黄金色の陽光のように。だから観る者の心の中に素直に染み込んで、その温もりを感じとることができ、いつまでも包まれていたいほど心地がいいのだ、と。
風に散る桃色の桜、はためく2人の黒い髪。緩やかな波打ち際、まぶしい太陽、舞い上がるのは無数のトランプ。家に咲く色とりどりの花々、そして白い光の中、華麗に踊り続けるアリスの姿。それらはみんな、あぁ、涙が出るほど美しい。それが些細な、例えばどこにでもある喫茶店であっても、その風景は驚くほど光に満ちている。そうして気付かされる。そう、この世界はこんなにも美しいのだと。
好きな人が自分じゃない別の人を好きだと知ったときの、雨の中のあの表情。机の列が少し曲がった、2人だけのガラリとした教室。じわじわと心に広がりくる共感。「邦画は苦手」といって聞かない人々に伝えたい。共感、懐かしさ、これらをはっきりと感じる事が出来るのは日本映画だけだ。
幻想世界のように美しい映像は、まさに「不思議の国の花とアリス」。記憶喪失、三角関係、定番を逆手にとった一筋の物語に、奇妙で可笑しな人間たちが瑞々しい葉として連なる。そして鈴木杏と蒼井優の、まるで水面に反射する日差しのようにキラキラ眩しい魅力が、永遠に美しい花として咲き誇るのだ。
間違いなく、これは世界一美しい青春物語。 【紅蓮天国】さん 9点(2004-02-27 22:20:21) (良:5票)(笑:1票) |
3.暗くて狭い映画館で観ているのにも関わらず、広い公園の芝生の上で暖かい日差しを浴びながら絵本を読んでいるような、そんな感覚でした。後で気がついたのですが、それは監督が「光」を大事に扱っているからなんでしょうね。光の巨匠と言われた画家クロード・モネの絵を見ているような、こんな不思議な感覚を味わった映画はないです。ストーリーはほんとに本当に日常なんですが、だからこそ愛らしく懐かしく、いつまでも大事にしたくなるようなことばかりに溢れていました。 【ちーた】さん [映画館(字幕)] 9点(2004-04-27 11:31:15) (良:3票) |
2.鈴木杏さんには悪いけど、最初は花というキャラクターに嫌悪感を覚えた。しょうもない嘘をついて強引に迫っていくのが個人的には気持ち悪くて、郭智博が花を好きになったことを「生理的に理解できない」と言ったときは思わず笑った。ナメクジ扱いも無理ないと思う(失礼)。 でも彼女が舞台裏で泣いた顔が、可愛かった。ぐちゃぐちゃの泣き顔なのに、すっごく可愛かった。 アリスもそうだが、実は目を見張るような美少女というわけではないのに、そのひたむきさ、不器用で傷つきやすく、そのくせ真っ直ぐに生きている姿に惹きつけられる。バレエを踊るアリスは線が細く、か弱く見えるのに、それでいて確かに強さと気高さを感じさせる。その真っ直ぐに伸びた姿勢に、息を呑むような美しさがある。 ほんとうの意味で「美しい」少女を見ることができたと思う。 【no one】さん [映画館(字幕)] 9点(2005-02-28 14:24:52) (良:2票) |
1.観ていて楽しく、面白い。いい感じの映画です。強いメッセージやテーマは見えないけれど、主演の二人の少女のやりとりの機微に引き込まれる。この、特に何も言っていない映画のどこがそんなに魅力的なのか? 自分はあだち充のマンガに似ているな、と思いました。あだち充の作品はキャラの大半が高校生。基本的に運動神経が突出している男の子が主人公だけど、作品のテーマはほとんど総て高校生のラブストーリーであり、好き嫌いの感情が台詞ではなく彼独特の記号表現とユーモアで描かれる。感心するのは、その描写の中で友情や約束といったデリケートな概念をとても大切に丁寧に扱っていることだ。突飛な喩えになったけど、この映画の主人公たちの日常を切り取る様は、あだち充の文法を彷彿させました。オーバーアクション気味の芝居や感情の抽出の仕方も良い意味でマンガ的。観ている方が恥ずかしくなるような青さに満ちている。でも微笑ましい。いや、大笑いもたくさんあった。それに合わせて、映像も出来る限り生々しさを排除し、ファンタジックな世界観でまとめている。自分の愛すべき映画がひとつ増えました。見応えという意味では、やはり蒼井優ですね。バレエの下地が「フラガール」のダンスシーンに繋がっていたことも分かりました。間違いなく若手女優のトップを走る彼女の原石部分が覗えます。 【アンドレ・タカシ】さん [CS・衛星(邦画)] 9点(2009-10-28 14:28:04) (良:1票) |