5.特別奇抜なこともなく淡々と進むのだが、そこに描かれているのは長男と夫の死そして手放すことになった末娘、普通に考えると辛い苦しいことばかりだ。生活だって楽ではないはずなのに決して弱音を吐かない、母親とはこういうものなのろうか。家族の愛がすばらしいし香川京子が光り輝いて見える。 【ESPERANZA】さん [DVD(邦画)] 8点(2015-01-12 19:39:37) |
4.この映画の怖いところは、母が次々に襲ってくる不幸から家族を守り続けているようで、その家族が順番に消えていくところ。家族の幸せを願うことが、その一家を解体していく現実。避けようがない病気を送った後には、娘を手放さなければならず、さらに精神的な頼りとなっていた手伝いの男も遠ざけなければならない。やっと露店から自分の店として再建できた家から、一人ずつ人が消えていく。中北千枝子に髪を触れられた娘はやがてこの家を去り、遠からずもう一人もこの家を去っていくだろう。これは成瀬の『麦秋』なんだと思う。あの解体していく大家族の物語を、成瀬の小市民の世界に移すと、こうなるんだ。どちらも厳粛な諦観が底に流れている。母はメソメソしないが、肝っ玉母さん的に豪快に笑うわけでもなく、激さない矜持を持ちながら不幸を通過させていく。どこかニヒリズムの匂いがする。成瀬の世界観がかなりクッキリ現われた代表作と言ってもいいんじゃないか。とちゅう股覗きしている子どもの視点になって逆さまの看板を捉えたり、映画館での「終」の画面で驚かせたり、けっこう遊んでおり、これは脚本の水木洋子の企てかもしれないが、サイレント映画を経てきた成瀬の可能性が高いと思う。加東大介、中北千枝子の常連脇役もそれぞれいい仕事をしており、とりわけ加東はベスト。どちらかというと「お嬢さん」役の印象が強い香川京子のパキパキした下町娘も新鮮だ。(そうか、岡田英次も香川京子も今では実質一人息子・一人娘になっちゃってるんで、なかなか結婚はスムーズに行かないかも知れんなあ。パン屋の長男がひょっこり生還すればいいんだが。まてよ、最後にクリーニング屋にやってきた見習い店員が16歳といってたから、娘とは二つ違い。あれを将来婿に育てて、と田中絹代は算段するかもしれん。まだまだひと波乱ありそうだぞ。) 【なんのかんの】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2011-10-24 10:06:07) |
3.良い映画ってこういう作品のことを言うんでしょうね。強さに加え寂しさを感じさせる母という存在は私にとっては映画ならではで、母が時折見せるそういった仕草や表情に強く心を揺さぶられます。母への視線を取り上げている作品ですが、家族は家族それぞれの思いやりの気持ちで成り立っているんだなということが心に残りました。全体として寂しいストーリーですが、クスッと笑える部分や母親の強さがそれを和らげて絶妙な趣を作り出しているように感じました。 【さわき】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2011-10-20 16:10:56) (良:1票) |
2.『浮雲』では、高峰秀子と森雅之が繰り広げる皮肉の応酬に多少なりともゲンナリしてしまったが、本作は全くの正反対な作品だった。
観た後は何とも言えない、ほのぼのとした気分に浸ることができた。
ラストシーンの、香川京子が魅せる“ウィンク”に脱帽。 岡田英次の演ずる劇中の青年が羨ましい。
そして観ている私も、まるで自分が“ウィンク”されたかの様にポッとなってしまった。
自分も男として生まれた以上は、本作における香川京子の様な可憐で可愛らしい女性から、一度は“ウィンク”されたいものである。
他にも舌をペロっと出すシーンがあったりと、噂に違わず本作は“香川京子を最も可愛く映し出した作品”であった。
香川京子目的で観た本作であったが、肝心の内容の方も素晴らしかった。
『浮雲』でもそうであったが、成瀬巳喜男の映画に出てくる東京の風景はとてもリアルだ。
どこかの花町を描いているわけでもなく、どこかの豪邸を描いているわけでもない。 むしろその様なものは他の古き日本映画で観ることが可能である。
しかし、成瀬巳喜男の映画に出てくる古き良き東京は、いわば『サザエさん』の実写的様相を呈していて、庶民の生活をそのままリアルに伝えている。
街の風景もそうだし、家の中の景色もそうだ。
自分はこんな昔の東京を見たことがある訳でもないのに、何故だか懐かしい気持ちでいっぱいになってしまった。
香川京子の存在といい、こういった懐かしすぎる東京の風景といい、茶の間の景色といい、全てが感動的なまでに懐かしきベールに包まれていた。
そしてそれを観ているこっちの方も、心洗われるのだ。
『浮雲』で成瀬巳喜男に対してゲンナリしてしまった諸氏に、是非ともオススメしたい作品である。
『浮雲』も日本映画史に残る傑作だが、こちらも対極に位置する形で、成瀬巳喜男の誇る傑作中の傑作だと言って間違いないであろう。 【にじばぶ】さん [ビデオ(邦画)] 8点(2007-09-02 11:16:17) (良:1票) |
1.田中絹代が時々見せる、言葉がなく目線だけによる演技が絶妙です。その、数秒の間に、悲しみや不安、時には、あきらめや納得が伝わってきます。息子と夫に先立たれ、末っ子を養子に出し、いずれは長女も嫁いでいくだろう。あるいは、あの時代このような母親が多くいたのかもしれない。つい、自分の母や祖母はどうだったのかと考えてしまう。最後の長女の「お母さん、あなたは幸せですか」という問いに何と答えるのだろう。その長女が見つめる中、預かっている妹の息子と布団のうえで相撲をとりたわむれる。母は強く悲しく美しい。 【パセリセージ】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2005-10-23 00:09:50) (良:1票) |