7.《ネタバレ》 ストーリーの前半の情報(ピクルスや偽ニュース番組など)を観る前に知ってしまっていたせいか、中盤は少しかったるく感じてしまった所もあったのだけれど、主人公が最後に作った「偽ニュース番組」での演説シーンで、あふれる涙を抑えることが出来なかった。元々母親にまだ社会主義体制が存続していると信じさせるために作っていたニュース番組は、最後には主人公の理想社会―強欲を捨て、他人に対する思いやりを持とう―を(実は観客にも)訴えかけている。この演説シーンを観ていて「独裁者」のあの演説が脳裏に浮かんだ、と言えば怒られるだろうか?確かにナチが台頭する中でのチャップリンのあの主張は非常に勇気あるもので、それに比べるとこの作品での演説はごく控えめで、ささやかなものだ。しかし、世界がグローバリズム化(総アメリカ化)の方向に向かい、誰も彼もが「勝ち組」になろうと醜い椅子取りゲームに明け暮れている現代、その主張は素朴かつシンプルであるが故に観客の心を強く打つ・・・・・・って、おっとっと、いつのまにか文章に力が入りすぎちまったぜい。要はとても良い映画なのでみんな観てねーって事です。蛇足ながら個人的には、大好きなチュルパン・ハマートヴァがヒロイン役で出演していたのが、予想外の嬉しいオマケでした。<追記>はうっ!いつの間にかこんなに「良」評価が・・・最近DVDで観直しました。映画館で観た時はプロットの面白さに目が行ってしまったのですが、改めて観ると息子の母を想う気持ちが伝わってきて心に沁みました。良い作品は、観る度に新たな発見・感動があります。 【ぐるぐる】さん 9点(2004-04-02 20:37:40) (良:5票) |
6.《ネタバレ》 良質な、いい作品を、久し振りに見ました。コメディ仕立てとはいうけど、傍から見れば滑稽と思えることを真摯にやっているからコメディに見えるだけで、物語自体はかなり重いファミリー・ドラマだと思う。それを軽やかに乗り切ったのは、やはり監督の手腕なのだろう。ソ連邦が崩壊し、ロシアになった数年後かに、「共産党時代は良かった。ノルマさえ果たしていれば給料が貰えたから」という市井の人々の声を伝えるコラムを読んだことがあったが、本作を見て、当時の東欧は皆、急激に入ってきた自由競争の厳しさに晒されて、同じジレンマに苦しんでいたんだろうなと、今更ながらに思った。同時に、うっかりすればしか爪らしいドキュメンタリーに転びそうなテーマを、主人公の若者らしい反骨心、それが原因で母が人事不省に陥り、やがて・・、と。自責と愛情の相克の中で、せめて母に残された時間を母が信じていた時代の中でと、急速に西欧化する世の中にあって、旧時代があたかも現存するように振る舞う息子の苦闘を通した逆転の視線が、無理なく時代を反映していて素晴らしかった。そして、どんな体制の下であっても、結局、生きているのは日々を幸福に、出来れば夢を実現したいなと望む人間なんだよということなんだな。共産主義も民主主義も、理念は立派なのだ。でも、結局、踏みにじるのはやっぱり、人間の欲なんだなと、最後のメッセージが逆に知らしめるようだな。ところで、瓦解した旧体制があるかのような映像を作っていた友人の子が着ていたTシャツがマトリックスTシャツというのが、笑えた。こういうマトリックス使いも、あるんだね。 【由布】さん 9点(2005-02-06 21:44:39) (良:2票) |
5.《ネタバレ》 寝たきりの母親の寝室の中だけに再現された東ドイツを、何とか保ち続けようとする息子の涙ぐましき奔走の日々。 アレックスの大嘘大作戦は「ライフ・イズ・ビューティフル」のグイドのように外の世界から大事な人を守るためだったのだけど、彼の作りあげた嘘の国が彼にとっても理想の国家に変貌していくのが不思議。 向こうみずで孝行息子すぎる彼のそばに現実的な姉アリアーネを置くことでバランスをとり、西側の同僚デニスは映像オタクを生かしてサポート、彼が「作品」の反応を知りたがるのがリアル。 恋人ララのおせっかいも結果的にはよかった? 母クリスティアーネの息子への眼差しを見たらそう思える。 外にさまよい出た母親の眼前をアレが横切る場面は圧巻で、まるで「同志」に別れを告げているよう。(CGとは知らず) 西独製品の作り変えや偽ニュース番組製作などの手作り感が、必死になって知恵をしぼれば何でもできてしまうのを見せてくれる。 40年の東西分断を経験したドイツならではの映画でドイツ近代史のお勉強にもなり、イェーン飛行士やお父さん、校長先生のエピソードとあれもこれもとつめこんで洗練された映画とはいえないかもしれないけれど、陰鬱にせずユーモアをからめた軽快なフットワークが好ましい。 戦後愛する母親と西と東に分けられた作家エーリッヒ・ケストナーが生きていたら、彼の本の少年たちのように母親思いのアレックスに、惜しみない拍手を送ったかもしれない。 【レイン】さん [DVD(字幕)] 9点(2010-08-20 00:00:03) (良:1票) |
4.とんだ掘り出し物。レンタル店で本作を見かけ「母親の命を守るために息子が懸命に嘘をつく」という比較的シンプルなストーリーに惹かれて借りてみました。ます本当に良く出来た脚本に驚かされました。当時の激動のドイツの国内情勢と映画自体とのバランスが抜群に取れていました。あまり必要が無いと思われるキューブリックへのオマージュに思わず笑いがこみ上げ、母に東ドイツは健在であるかのように振舞う息子の一生懸命な姿にも笑いながらも家族とはどうあるべきかを改めて考えさせられた。音楽も強く印象に残り、より一層感動を引き立ててくれる。この母への嘘つきに全員が協力的ではなく、半ば投げやりな態度の姉がいたことにも非常にユーモアが感じられ良質なストーリーだけでなくこういったキャラクター像を提案したスタッフの実力に頭が下がります。そしてラストの花火。またもや素晴らしい音楽に乗せて流れるこのラストに感動せずにはいられなかった。近年の韓国映画と同様、ドイツの映画も徐々に本領発揮と言ったところでしょうか。ハリウッドに負けない良質な映画を作れる国が増えているのは紛れも無く事実。ハリウッドももう少しCGばっかの映画に頼らずにこういう金を掛けずに素晴らしい映画作ってみようよ。マジで。 |
3.「素晴らしいわ」が全てを物語っている。社会主義は資本主義に敗北した。しかし目の前に映しだされているのは、社会主義がついに到達した理想の世界。そして傍らには、自分のためにそんな世界を創造してくれた息子。母親の言葉は、全てに対しての賛辞だろう。この映画には、西側諸国が唾棄してきた社会主義という理念が根っこに持っていた純朴さ、にスポットが当たっている。一夜にして資本主義なだれ込んで来た東ドイツ。果してそれは本当に幸せな事だったのだろうか?アメリカは、日本は本当に豊かな国だろうか?「西側的退廃文化」は’90年代から確実に社会的病理を生み出し始めた。現在、旧東ドイツ地域の失業率は20%以上とも言われる。「今こそ我々は手を取り合い、次なる世界へと飛躍するのです。」S・イェーンの言葉は、資本主義の水にどっぷり浸りきり、他を顧みることのなくなった自分達に向けられたメッセージなのだろう。 【C-14219】さん 9点(2004-10-27 23:01:05) (良:1票) |
2.《ネタバレ》 前半はコメディ仕立てだけど、私は何故か途中から涙腺をやられた。国家の再統一という「国家的事件」と大黒柱の母親の闘病という「家族的事件」の2つの軸を重ね合わせ、時代にほんろうされた家族が再生する姿が描けていると思う。母親とララが後半、アレックスのいない病室で喧嘩していたように、ラストでは母親は嘘を知らされていたはず。しかし、死期を迎えた母親に見せた最後の嘘のニュースは、少年の頃のアレックスのヒーローだった元宇宙飛行士が臨時の国家元首に扮して、統一された新ドイツの姿を語る姿。それは西ドイツがいつか失って、東ドイツがたどり着くことに失敗したような現実にはない理想の国の姿。アレックスに優しい視線を向けながら母親が語る「すばらしいわ」の言葉は、国家再統一という歴史の荒波の中で、人々が失ってはならないものに気付いたアレックスの成長に向けられたもののように思える。新しい国の誕生を祝う花火を見ながら、万感の思いを胸に母親は静かに旅立っていく。父親の所在をめぐる嘘を告白し、アレックスたち家族の優しい嘘を受け入れた母親はすべてに安心しきったような穏やかな表情だ。おかしくて笑い、しかし、同時に涙が出る、そんな不思議な映画だった。余談ですが、ララ役の女優さん、可憐でかわいいですねえ。 【しまうま】さん 9点(2004-10-11 03:19:35) (良:1票) |
1.母のために息子がした、世界が何一つ変わらないフリは、徐々に自分自身の理想国家になっていく彼の思いは、優しさと切なさに溢れてた。そして私たちが本当に幸せに暮らす社会とは?というメッセージがあるように思う。私がまだ幼い頃に東ドイツにいた経験があるので、もう今は存在しないのだと思うと世の中不思議だなぁ。ちなみに主人公の彼は多少マザコンがはいってそうな感じだが、まぁいい。 |