1.伝説的な戦士アキレスを主人公とした映画を撮ることになった時、ペ-タ-ゼン監督には、かつてフリッツ・ラング監督が映画化した『ニーベルンゲン』二部作のことが脳裏に浮かばなかったんだろうか…。あの第一部『ジーグフリード』において、竜の血を浴び不死となった主人公は、確か一枚の葉が背中に付いていた部分だけが不死身ではなかった。ちょうど、アキレスにおける“アキレス腱”のように…。 ラングはその後、ナチス・ドイツ政権下のドイツからアメリカへと亡命する。そしてハリウッドの「御用監督」として、娯楽映画を撮りまくったのだった。同様にペーターゼンも、(亡命じゃないけれど)ドイツからアメリカに招かれ、エンターテインメント大作の監督として重宝がられている。しかし、彼の前作『パーフェクトストーム』には、間違いなく〈運命〉というものへのゲルマン民族的(!)な感受性というか、眼差しがあったとぼくは信じているのだ。それが、あの映画を現代における《叙事詩》的なるものを、奇蹟のように実現してみせたのだと。…人は、どんなに抗おうとも自然(=神)の前に破れ去る。しかし、その抗う姿にこそ人間の「偉大さ」があることを描き、称えるのが《叙事詩》なのだから。 だからペーターゼンが、ホメロスの神話的叙事詩を映画化すると聞いて「やっぱり!」と期待していたのだったけれど… たぶん、「エンターテインメント」としては申し分のない映画ではあるんだろう。ブラッド・ピットは文句なしにカッコいいし、エリック・バナは儲け役だし、ローランド・ブルームだって損な役回りを懸命に演じているし。戦闘シーンも、どこまでがCGなのかぼくなんかには判断がつかないほど精巧で、スケール感において大したものだ。しかし、それだけのことだ。一瞬でもラングの名前を思い浮かべ、『ニーベルンゲン』を重ねようとした自分が、ひたすらバカだった… 見終わってその期待が、「やっぱり…」という嘆息に変わったことを、ここにご報告しておきます。映画が悪いというんじゃなく、ぼくが悪いんだろうけど。…嗚呼ペーターゼン 、本当にアンタは“この程度”のカントクなのか? 【やましんの巻】さん 5点(2004-05-28 13:03:33) (良:2票) |