7.「たまげた」とは、漢字で書くと“魂消た”となる。タマシイが消えるほどの驚愕ということの本当の意味を、ぼくはこの映画で知りました…。少年の作った稚拙な「偽札」が、人の手から手へと“流通(!)”していくことの不条理。その1枚のために、投獄され、妻子を失い、遂には善良な一家を惨殺する男の顛末は、運命というより、あたかもそれが「必然」であるかのように、寸分のブレもなく進んでいく。…フランケンシュタインの怪物は「感情」を持っていたがために悲劇を招いたけれど、この映画の男は、徹底的に感情を喪失した「怪物(モンスター)」として映画の最後に君臨する。ゆえに、もはやこれはどんな悲劇でも不条理劇でもない、究極の「ホラー映画」に他ならない…。繰り返すけれど、ぼくにとってこれほど恐ろしい映画はなかったし、これからもないだろう。単なる“好き・嫌い”を超越した次元でこの作品は、《映画の極北》として、絶対零度的な寒々しい輝きを放ち続けている。…ヘタに近づくと、あなたのタマシイも凍りついちゃいますよ。 【やましんの巻】さん 10点(2004-03-03 13:47:26) (良:3票) |
《改行表示》 6.原作はトルストイの『にせ利札』。 富裕層の少年がいたずら心で犯した過ちが、労働者であった一人の青年の人生と魂を破壊していく物語だ。 少年家族、写真店の夫婦(彼らは富裕・中流層であるがゆえに善良とみなされるのだ)にとって都合よく片づいた小さな事件は、彼らが思いもつかないほどの重大な結末を招くわけだが、これは非常に普遍的で闇の深いテーマである。 この社会が黙殺する小さき者たちは、度々社会を震撼させるような事件を起こす。 それは、凶悪とか復讐を通り越して、この世の中を道連れに心中していることに他ならないのだ。 だから、殺害対象は必ずしも憎い相手でなくても構わないのだろう。 現代社会に生きるすべての者が決して目を背けてはいられないほど重大で深淵な問いを、簡潔かつ厳格な演出で突きつけた、威厳に満ちたこの遺作にただ震撼する。 【poppo】さん [映画館(字幕)] 8点(2011-10-02 18:26:52) (良:1票) |
5.冒頭に映されるのはいかにも現代的な裕福な家庭。ごく普通の家庭の普通の会話が少しだけ映される。しかしその「普通」の中に、そしてその「少し」の中に、息子の甘え、親の無関心、責任のなすり合いといった醜悪なものを凝縮させている。この一見「普通」でありながら実は「醜悪」なものはこの後も延々と映され続ける。これが現代社会なのだ。ブレッソンは「醜悪」なものをけして大袈裟に映像化しない。「普通」の中にあるものを巧みに見せてゆく。『少女ムシェット』で少女が何かに怒っているように『ラルジャン』の青年もまた何かに怒っている。「何か」とは社会に他ならず。が「何か」はあまりに大きく、且つ漠然としているためにその怒りもまた矛先を持ち得ない。弱者は殺人者になるか死ぬか。強い者のために弱い者が虐げられ、強い者のために弱い者が作り出される社会。ブレッソン思想、ここに極まり。それでいてブレッソンが早くから確立させていたモンタージュの完璧さと「手」「足」「扉」に代表される印がこの作品を「ブレッソンの映画」たらしめている。「ブレッソンの映画」とは最高級ブランドである。 【R&A】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2009-05-22 16:15:07) (良:1票) |
4.《ネタバレ》 洗面所で手を洗っているところを撮るだけで、主人公が殺人を犯したことを効果的に伝えてしまうブレッソンの手際のよさには舌を巻く。ストイックな演出が冴え渡る中で、ワンカットだけ映し出される女性の脚がなんともエロティック。 【クルシマ】さん [ビデオ(字幕)] 9点(2008-06-07 00:25:55) (良:1票) |
《改行表示》 3.《ネタバレ》 首が飛んだり、血しぶきが吹き荒れる、といった類ではないが非常に怖い映画でした。 金は天下のまわり物。 彼が人を殺したのもお金のため。 私がこの作品を好きなのは、殺される老人のひくバッハが印象的だから。 なぜ『半音階的幻想曲とフーガ・ニ短調』だったのか。 ブレッソン監督におしえてもらいたかった。 これを観た後、猛然と練習して今も時々ひくお気に入りになりました。 ひきながら頭の中は、庭に面した部屋でバッハをひく老人がいつもよみがえります。 【バッハバッハバッハ】さん [映画館(字幕)] 9点(2008-04-20 00:21:20) (良:1票) |
2.魂消ちゃいました。 【Qfwfq】さん [映画館(字幕)] 10点(2006-08-04 19:18:01) (笑:1票) |
1.雷に打たれたかのような強烈な衝撃!!。鋭利で張り詰めた雄弁な画像、ダイナミックな構図と構成、素人俳優による虚飾を取り去ったリアリティ、ドキッとするようなプロットと展開と。鋭敏な鬼才ロベール・ブレッソンでこそ到達し得た高みである。なお、テーマはラルジャン(=お金)。原作はトルストイの後期短編小説「偽りの利札」(物神化されたお金に翻弄される人間の宿命を描いていて、極めてドストエフスキー的!!)。 【チャターBOX】さん 10点(2004-05-06 18:28:05) (良:1票) |