《改行表示》 5.言うまでもなく、山中貞男監督版『百萬両の壺』は日本映画史上最も完璧な映画の一つである。そのオリジナル90分に対し、本作は118分。完璧な映画にくっついた30分。これだけでも、このリメイク版における無駄の多さが手に取るように分かる。 チャンバラはプツプツ切れるからテンポが悪く、一番大事な”斬る瞬間”が分かりにくい。魅せるための工夫が全て邪魔になっており、トヨエツの頑張りも演出のせいで台無しだ。冒頭に入れられた「乾雲坤竜」のエピソードは左膳の反骨精神をクローズアップするのかと思いきや、中途半端すぎて全く活かされていない。ラストシーンの変更は冗長になっただけで、抜群の後味を薄めてしまっている。一々うるさい効果音は必要ないし、あの夫婦漫才師は悲惨すぎる。なにより場違いでうるさいだけの音楽が、これでもかという程ウザい。 オリジナルを尊重するといっても、そのまま造り直すだけならリメイクの意味は無い。だからアレンジを加えるのは当然である。しかし、本作においてはそのアレンジが全て逆効果という最悪の結果。もう、これは監督のセンスに問題があるのだと思う。喜劇というのはリズムで、それは天性のもの。いくら色が綺麗で構図が見事でも、こんなんじゃ全然駄目だ。 そう、全然駄目なのである。だけど、リメイクとしては駄目でも、一本の映画としてはそんなに悪く無い。いやむしろ、普段より年配の方が多かった劇場は終始笑いが絶えなかった。左膳とお藤の口喧嘩、そして省略が産むおかしさ、これは何度見ても、パターンは同じでも、分かっていても笑ってしまう。 やっぱり山中貞雄監督は偉大だ。こんなに下手に料理されても、それでも物語は輝き続ける。良いところは全部オリジナル版のままで、悪いところは全部アレンジした部分。だけどスクリーンで初めて左膳を観させてくれた事、そして何よりリメイクによって山中監督が多く取りあげられ、オリジナル版を観れる機会をつくってくれたこと。それだけでもこの映画には感謝をしたい。 あ、だけど一つだけ、山中監督版よりもこっちの方が勝った部分がある。あぁ、俺も麻生久美子の尻にしかれてみたいなぁ・・・。 【紅蓮天国】さん 7点(2004-07-18 17:40:11) (良:4票) |
4.オリジナルは、大河内傳次郎、喜代三(きよぞう)、沢村国太郎、花井蘭子、これらの役者の芳醇な雰囲気、そこに山中の省略技法、間接的表現、さらっと射し込む心象風景、これらの演出が加わり見事に涼しくリズミカルな喜劇に昇華した、と見ております。で、本作です。まず豊川悦司、熱演も少し演技が飽和したようで、大河内にはあった“遊び”のなさが気になります。和久井映見、芸者であり小唄の歌手であった喜代三と比べるのは可哀そうですが、艶っぽさが少し足りないかな~。野村宏伸のとぼけた雰囲気は、沢村国太郎をかなり忠実にトレースしたようですが、どこか線の細さを感じさせ物足りないです。麻生久美子は、花井蘭子の飄々とした感じからすると、逆に存在感がありすぎるかな。という具合の役者陣に、太刀のシーンやラストの感傷的なシーンが大幅に加わっているものですから、どうもギッコンバッコン。それと明らかに浮いしまっている合成効果音、多用される大仰なBGM、これらはそのシーンの雰囲気を映像で感じる楽しみを観客から奪っているとしか思えません、です。これを見た後、また山中版を見たのですが、ロングショットの構図、縦の構図、やはり生き生きしておるね~。 【彦馬】さん 6点(2004-09-23 00:17:33) (良:3票) |
3.どっちかっつーと無口で大人しい役の方が似合いそうなトヨエツと和久井映見が、威勢よく啖呵を切りまくる! 見ててこんなに不安を誘うものもない。いや、二人とも堂々と役をこなしているんだけども、果たして映画の最後まで演じきれるのか、もしや途中で「もう限界です、こんな役、自分に向いてません」とギブアップするのではないか・・・。他にも、屋内シーンが、天井に蛍光灯が釣り下がっているのではないかと思うほど異常に明るかったり、子供のアタマが強烈なまでにカツラっぷりを示していたり、ロケのシーンでは異常なまでに「まとめ撮り」っぽかったり、不安な要素が次から次へと。オチオチ安心して映画を見ていられない、このスリル感。どうやらワザと変なテイストにしているらしい。らしいのはいいけど、引き締めるとこはちゃんと引き締めてくれないと、ただの手抜きに見えてしまう。だもんで、リメイクとしてもパロディとしても物足りない感じは否めません。ところで、変に大仰なバカっぽいシーンになると、つい「最近のチャン・イーモウっぽいなあ、うはははは」と心の中で笑ってしまいます。意外な映画同士が意外な接点を持っているものですな。うははは。 【鱗歌】さん [DVD(字幕)] 6点(2005-06-04 03:42:34) (良:2票) |
2.モノクロ・スタンダードで映像・音声共ボロボロ、おまけにGHQにカットまでされてしまった70年前のオリジナルを、平成の世にリメイクする意義は十二分にあったと思う。しかし、オリジナルが邦画史上屈指の傑作(てか、画期的作品)だったことや、そもそも「丹下左膳」というキャラクター自体ほとんど忘れられてる現在に、「丹下左膳餘話/百萬両の壷」単体で提供することには無理もあったと思う。ま、そういうことは置いといて、本作だけを見てみれば、モノマネ大会的感が無きにしも非ずですけど、基本的にオリジナル脚本に忠実だったので、それなりに楽しくは観れました。私が特に気になった点は2ヶ所。まず、左膳の過去のシーンはいらない。「化け物の如く強い男」がいきなりやられてちゃ絶対マズい。このシーンを入れたからって左膳の説明には全然なってないし…。そして、和久井映見。この役は極妻・高島礼子辺りがぴったりだったんじゃないでしょうか、5点献上。 【sayzin】さん [CS・衛星(字幕)] 5点(2006-01-19 00:04:40) (良:1票) |
1.《ネタバレ》 先にオリジナル見てしまいました、スクリーンで観るチャンスがあったので。そっちは9点。リメイク版はなんといっても「間の取り方が悪い」。冒頭のシーンはしょうがないと思います。今では丹下左膳自体の存在が知られていないですから。微妙に配役変えたり、オリジナルになかったシーン加えたりしてますがすべて空回り、オリジナルへの注目を集めスクリーンでの上映があったこと、またDVDを観てもらえる可能性を広げたことが評価の対象ということで、この得点。間の取り方の悪さは、オリジナルの脚本の会話にこだわったせいではないでしょうか。左膳の言い回しに大河内傳次郎の影響が強いですし、源三郎も沢村国太郎の飄々とした感じを踏襲してますが、そのわりに和久井映見は語尾が現代風になってしまいちぐはぐでした。東京の東側のおばちゃんたちのしゃべり方、とくにその語尾の言い回しで構成すればもうちょっと救いがあったかも知れないと思います。「~だよ」「~しておくれよ」「~じゃないか」で言葉が終わればね。あの鬱陶しいBGM、もしかしたらこのモタモタ感をちょっとでもごまかすため付加されたかも知れませんね。セットも、鴨居が低いわりに天井が高く、たぶん照明の都合だと思いますが違和感たっぷりです。冒頭のシーンにお藤を出すことで呼称が「先生」に統一できなくなったのもマイナス。このように糞味噌ですが、作品単体としては5点はつけられるかな、上記の理由でプラス1点。最後に「回収屋」ってテレビ放映を予定しての言い換え? かつみさゆりとともに無理がありすぎる。オリジナルではクズ屋の高瀬実乗(たかせみのる)に、「あのねオッサン…」と言わせなかった山中監督の絶妙な配役に感嘆したものです。 【shintax】さん 6点(2004-10-20 18:28:36) (良:1票) |