《改行表示》 13.《ネタバレ》 鬼も逃げ出すという「羅生門」で“人間の愚かさ”を描いたように、本作もシェイクスピアの悲劇「リア王」をベースに神や仏も泣き出すという“人間の愚かさ”を描き切っている。 しかし、ここには「羅生門」のような“希望”はない。あるのは残酷なまでの“醜さ”だけだ。 舞台は架空の戦国時代であるが、現代にも通じる“乱”れた世界に対する“嘆き”が込められた作品であり、製作者の黒澤のメッセージや深い想いが感じられる作品だ。 また、「影武者」でも描かれていたが“破滅”に対する美意識も高い。 長く暗く陰惨な映画ゆえに一般的に好まれない映画ではあるが、個人的には、評価の高い「羅生門」よりも、評価がそれほど芳しくない本作の方を好む。 仏の絵が地面に置き去りにされて、悲しげにこちらを見つめており、盲目の青年が崖の上に取り残されているというラストのカットも秀逸だ。 ここで終われば完璧だと思った瞬間に、きちんと幕を閉じたのはさすがだ。 「果たして仏は我々を見守っているのだろうか」「この“乱”れた世で生きるということは、盲目状態で崖の上を歩くようなものなのではないか」と黒澤は言いたかったのかもしれない。 素晴らしい作品であると感じるが、何点かは不満な点もある。 ①「三の城襲撃について」 襲撃に至るまでの展開がやや早すぎるように思われる。 次郎が秀虎を体よく追い返すまでは理解できたが、肝心の襲撃に至るまでをもう少し分かりやすく構築した方がよかった気がする。 あれでは、単なる「謀反」のようにしか感じられなかった。 ただ、演出は素晴らしい。 呆然とする秀虎の背後をびゅんびゅんと火矢が飛び交うような現実離れしたリアリティのない演出ではあるが、あそこまで思い切った演出をするのは難しいものだ。 ②「ピーター演じる狂阿彌について」 彼なりに健闘していたように思えるが、本作の裏の主役でもある大切な存在こそが「狂阿彌」である。本作の成否が彼に掛かっているといっても過言ではない。 この世の“表裏”を見聞した彼の言動こそが、本作のキーとなるはずだ。 道化である彼が一見狂っているようにみえるが、“乱”れた世で一番まともだったのが、彼だったというオチに持っていきたかったところだ。 少々感情を表に出しすぎているところがある。ストレートではない悲哀を感じさせるキャラクターに仕上げることができれば、より傑作に近づいた気がする。 【六本木ソルジャー】さん [DVD(字幕)] 7点(2008-01-05 17:15:21) (良:2票) |
12.ストーリーが理解しにくくて入っていけなくてほとんどが退屈だった。おまけに3時間という長さも気になって観ているのがとても苦痛だった。だけど映像が昔の映画とは思えないほどすごく綺麗で迫力もあった。観ている最中に「この映画なに?」と聞かれて「ラストサムライだよ」とウソをついても5分くらいはばれないないと思う。 【Syuhei】さん 4点(2004-04-25 19:47:46) (笑:2票) |
11.日本の映画の中でこれほど外国人受けする映画はないと思います。統計をとったわけではないのですが・・・でも、外国人がこの映画を評価するのは色鮮やかな旗が乱舞する合戦シーンなどの日本趣味でしかないのかもしれません。また、この映画を一度しか見ないで出来不出来を云々する方の中には外人がこの映画を見る目とそれほど変らない見方で評価していらっしゃる方も多いのではないかと思います。でも、私はこの映画を二度目に見た時にはシェークスビアの原作にはない何か、日本的、あるいは仏教的と言ってもいいかもしれない何かを感じました。二度目には長男の妻と同じ経緯で一文字家に嫁いできたのにもかかわらず寛容な心でもって秀虎を許す次男の妻やピーターが演じた狂阿弥の台詞の一言一言に着目する余裕があったせいだと思います。参考になるかどうかわかりませんが、シェークスビアは「リア王」を書くに当たって作品をキリスト教と無関係なストーリーにしたいと考え、わざと舞台をキリスト教伝来以前のイギリスに設定したそうです。だとしたら、この映画は黒澤監督がシェークスビアの意図を受けてセンター前にヒットさせたような作品かもしれません。でも、私はやはりこの作品は「黒澤」で「日本」だと思います。 【かわまり】さん 9点(2004-03-09 11:31:28) (良:2票) |
10.《ネタバレ》 楓の方が首をきられるシーンでの躍動感と凄み、大炎上する城、ラスト近くで三郎が矢に倒れるシーンでの衝撃など、見応えのある場面が点在していますが、途中で何回か息切れをしてる感があります。新人や素人の役者を使い、自然な演技を求めたというものの、逆にあまりにもお芝居が堅く、効果的ではない気がします。『影武者』にも言えることですが、違和感すら覚え、作品に入り込めない一つの要因になっているような気がします。また、秀虎が発狂する場面も「大殿が狂われた!」と衝撃的な演出で成功していますが、この後、この狂った様をピーターとの絡みで何度も繰り返し描かれるとさすがに流れが悪い。もちろん狂言の様式を取り入れた台詞のやり取りは往年の力量で、個々のシークエンスとしては評価できますが、あまりにも同じ要素を持ったシーケンスが次々と繰り返されるのは評価の分かれるところ。ただ、この作品は一文字家の家紋が「日」と「月」を象った、「明」であって、秀虎はまさに黒澤の分身との意が強い。その意味では、他の作品に比べて、特に個人的な趣向が直接的に作品に反映されている、いわばライフワークと考えてもよく、多少のしつこさは致し方ないところか。とにもかくにも、この作品は黒澤監督がやっと自分の為に映画を作れた作品であると位置づけたいのですが、こうした重要な作品に黒澤の最良の分身であった三船がいない、ということはやっぱり悲劇であったという気がします。往年の作品に比べて、何か悲壮感が漂うこの作品も、三船であったならば、何か違った演出を試みたのではないか、と思われてなりません。 【スロウボート】さん 7点(2003-10-28 00:52:56) (良:2票) |
9.冒頭の猪狩りの主役はどこまでも青く続く広大な山々。唯一家族がそろったシーンを唯一陽光まぶしい晴天としたこだわりの中で、丘の頂点に立つ人物を別の丘から撮るという贅沢。カメラから何百メートルではきかないかもしれない距離をおいて演技をする俳優たち。人間の小ささと共に舞台の背景である「世界」を最大限に見せてくれる。後半でも野村萬斎が城跡に佇む超ロングショットが無常観を醸している。一方、合戦シーンは全体を捉えずにまるでカメラが合戦のど真ん中にあるかのようにその躍動だけを見せてくる。台詞回しは不自然な舞台劇風。もちろんその時代の自然な会話というものを知らないのであくまで私見ですが、仕切りの無い、あるいは無いように見せた世界で演劇をする。つまりは映画は嘘の世界であり作られた世界であるということを前提に、でも視点は無限にあるのだという監督の映画観の表れのような気がしました。とにかくこの妥協無き画は天晴れである。 【R&A】さん [ビデオ(邦画)] 7点(2007-03-26 14:16:42) (良:1票) |
8.白黒のほうが黒澤映画はいいのが多い気がする。 【Sleepingビリ-】さん [DVD(字幕)] 5点(2005-08-23 02:49:39) (良:1票) |
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7.シェークスピア「リア王」の焼き直し。主演の仲代達矢が、いかにも舞台を演じていて、鼻につきました。主役をはれる役者ではないと、あらためて思いました。狂阿彌(ピエロ)役のピーターが、意外とよかったです。脚本は戯曲からの脚色が、うまくいっているとは思えません。ひとりで書きおこした限界でしょうか・・・黒澤はもともと脚本のうまい人ではないと思います。美術は、豪華というよりは、派手。シーンごとのメリハリがなく、お金のかかったおもちゃにしか見えませんでした。高齢になって、黒澤の映画はさらに尺が長くなりました。後半は(シェイクスピアを知っているだけに)、観ているのがかなり苦痛でした。 「影武者」を、盲目的に踏襲してしまった作品。前作よりもこなれてはいますが、失敗した部分をそのまま残してしまっています。 【DONGYAOS】さん 3点(2004-06-17 15:09:38) (良:1票) |
6.昔、「乱」がリア王を下敷きにしているという情報を知って、クロサワが三人姉妹の映画を作るのかと思って唖然とした記憶があったが、まもなく三人姉妹ではなく、三人息子のドラマと知って納得した(笑)。やはりクロサワは男の世界、ということだろう。ところで内容だが、まず痛感するのはクロサワ・ワールドを十全に表現できる役者が、この頃でも殆どいなくなっていたという事実だ。仲代達也とてこの役柄は必ずしもしっくりしてはいない。そういった事情かドラマ性がなんとなく希薄である。全体にエピソード羅列的で骨太なドラマの展開というわけにはいかない。復讐のために一文字家に嫁ぎ、奸計をもって一族も己が身も滅ぼし尽くす楓の方には、マクベス夫人より、「ニーベルンゲンの歌」(中世ドイツの叙事詩)のヒロイン、クリームヒルトの影が濃いように思われるのだが如何?ドラマの歯切れ悪さを補うかのように映像美は影武者以上のこだわりぶりで、絢爛たる色彩の氾濫だ。この作品からはクロサワ自身の衰えと老年ならではのこだわり、そして今日の芸能界事情といったものが透けて見えるような気がする。 【トコトコ】さん 6点(2003-09-27 11:30:27) (良:1票) |
5.映像はキレイでスケール感があってすごいです。ただどうしても「お城を燃やした映像が撮りたい」このための映画という気がします。道化のピーターが一番よかった。 【亜流派 十五郎】さん 7点(2003-08-24 19:59:48) (良:1票) |
4.私の周りにもこの映画に批判的な意見の人が多くて、まあ図星だな、と私も思うだけにつらいものはあります。中学の頃親に連れられて観に行った本作が最初の黒澤体験でして、鮮烈な印象を受けた(特にラストシーン!)のが忘れられません。当時の私は何をトチ狂ったか、たまたまシェイクスピアばかり読んでたんですが、『リア王』のスケールのデカさは、この映画にも感じることができました(ちなみにワタシの能力では、『リア王』はスケールがデカ過ぎて一読では理解できなかった。トホホ。今ではとても好きだけど)。まあ、実際には、『リア王』ではなく「三本の矢の教え」が映画の発想の原点だそうですが。とにかく雑なところも目立つ映画ですが、やっぱり圧倒的な存在感のある貴重な映画には違いないと思います。あと、武満徹という作曲家を知ったのも、この映画がきっかけで、何となくイイなあ、と思ってたんですが、あまり打楽器を好まなかった武満さんにとっては異色の試みでもあったんですね。 【鱗歌】さん 9点(2003-07-05 20:54:45) (良:1票) |
3.映像は素晴らしい。様式美の極致である。まあ、設定だとか合戦シーンだとか細部にはツッコミたいところも多いが、その辺は良しとしたい。人によって、好き嫌いは出そうだなぁと思うが、リア王を下敷きにして、こういうモノを創ってしまうのは、日本らしい。仲代は表情に迫力があり、所作が訓練されているので美しく、私は人と調和しない老王をよく演じていると思う。なので、このキャストでオッケーである。個人的には根津氏と隆氏のキャスティングも良かったと思っている。ただ・・・・・・ピーターの演技(と台詞)が過剰気味で、だんだんうざったくなってくる。彼の出演シーンをもう少し減らして、ぴりりと効かせる程度にとどめるべきではなかったか。映像美と相まって、最初は謡曲(能)の舞台を観ているような気分だったのだが、途中から狂言に変わってしまったような、そんな感じがしたからである。謡曲っぽいということは「観るつもりで観ないと、飽きる」ということでもある。 【ルクレツィアの娘】さん 6点(2003-06-05 19:51:11) (良:1票) |
2.まず色彩の美しさ。劇場の大画面で観ていたらさぞかし圧倒されたでしょうね。原典の「リア王」はあまり好きではないんですけど、この画で見せつけられると、もうグウの音も出ません。私は日本映画を観るといつも台詞が聞き取りにくいなぁ~と思うんですが(耳が悪いのか?)、これは話を知っていたので特に問題ナシ。カラー後の黒澤作品は総体的に評価が低いようですけど、これは過去の傑作群と較べても決して見劣りする様なものではないと思います。 【愚物】さん 8点(2003-01-21 14:01:14) (良:1票) |
1.「世界の黒澤」の名が泣く作品。邦画ファンなら、許し難い黒澤の汚点。ここに「乱」というタイトルがあること自体が遺憾。「野良犬」、「生きる」、「蜘蛛巣城」、「天国と地獄」などの名作があるはずなのに・ァΑ」 【大列車強盗】さん 0点(2000-12-11 00:22:22) (良:1票) |