4.完璧な映画化などといったものは存在しない。
完璧な絶望が存在しないようにね。
映画化の噂を聞いたとき、僕はそんなふうに自分を言い聞かせるようにした。
なにしろ僕はノルウェイの森という小説が大好きだったものだから、いささか辛い想いをすることになったとしても、これは見ておくべきだろうと思ったのだ。
結果から言うと、僕の予想通りいささか辛い133分となってしまったのだけれど、それは最初からわかっていたことなので、しかたないことなのかもしれない。
村上春樹の良さは、深いテーマを軽くて読みやすい文章と独特の言い回しで綴るあたりにあると思うのだけれど、ストーリーや台詞だけを忠実に映像化してしまうと、こんなにもつまらないものになってしまうのかと、僕は唖然とした。
小説と映画の違いは、単純に言うと主人公であり、あるいは視点とも表現できる。
小説のそれが一人称の僕なのに対して、映画のそれはワタナベなのだ。
なんだ同じじゃないかと言う人もいるかもしれないけれど、僕にはそれが深刻な問題だった。
僕はワタナベたちの物語を覗き見するよりも、一人称の僕を通して、共感したり、後悔したり、混乱したりしたかったのだろう。
でもそれは僕が思うだけで、誰もが感じることではないのかもしれないので、見ない方がいいとまでは言えないのである。
少なくとも害があるほどの問題でもあるまい。
僕はそう思うことにして、本来付けるつもりだった点数を1点甘くした。