56.嘘で塗り固められた実際の人間関係を描いた現実と真実はビデオというフィルターを通すことでしか得られない虚しい現実との対比は見事だ。
確かに特にセックスに関しては嘘だらけなのかもしれない。
ジョンは、妻には妹との不倫を隠すために嘘を付き通し、友人のグレアムの彼女を寝てしまえば今度は友人に嘘を付きとおす。
そして顧客(社会)にも嘘を付き通す。
もっとやるのなら妹に「妻と別れる」と告げるくらいの嘘があればもっと良かったのだが。
そうこうしているうちに嘘だらけの人間関係が出来上がる。
しかし嘘が嫌いだからといってグレアムのようにビデオという一方通行の人間関係に逃げて、現実の人間関係に向き合わなくても良いのだろうか。
それをシンシアによって解決している気がする。
質問する側とされる側の逆転現象。
ビデオを確かに真実を映しているが、ビデオに撮られる側=自分をさらすこと、ビデオに撮る側=自分を決してさらさないこととも考えられる。
さらされることがなかった本当の自分をさらけ出すグレアムの恐れをシンシアが見事に引き出している。
やはり必要なのは人から逃げることではなく、相手と話しそして相手を理解することなのだろう。
それによって人と向き合うことだけでなく、自分と向き合うことも出来ると感じられた。
他人の人生に影響を与えたくないと人との接触を拒むことは決して出来ない、人間が生きている限りは。
お互いに向き合い、嘘がなくなったグレアムとシンシアには壁がなくなった近さを感じる。
そして嘘がなくなったシンシアと妹にももはや距離はなかった。