8.《ネタバレ》 9.11の同時多発テロ事件が映画化されることについては、私は大きく予想を外しました。いずれ映画の題材となるであろうことは誰しも想像するところ、ただ、まさか、あの大勢の犠牲者を出した事件からたった5年で映画が作られてしまうとは。娯楽としての要素、ビジネスとしての要素を有することが否定できない、映画として。
一方で、そうやって作られ始める映画の一本が、オリヴァー・ストーン監督の手によるものだ、というのもこれまた意外。事件からの「5年」という期間、これがどのくらい短いと言えるかはともかく、実際は事件以降、あれよあれよという間にアフガニスタンからイラクへと戦火が繋がっていき、2006年頃なんて、サダム・フセイン拘束後とは言え戦闘は散発的に続いており、事件との地続き感バリバリの頃。そこに、あのオリヴァー・ストーンが早くも映画を作ってきた、というのがどうもキナ臭い。
しかし一方で今回の作品は、脚本にも製作にも名を連ねず、監督のみ、ってことらしい。これをどう捉えればよい?
実は私、今までこの作品、見たことなかったんですよね。というか、見ないようにしてきた。なんとなく、見ない方がいいような気がしてたんですが、まあ、事件から20年以上経過して、そろそろ、大丈夫かな、と。それに、なぜか時々、ニコラス・ケイジの顔が見たくもなったりして、じゃあ、コレかなあ、と。
さて、オリヴァー・ストーン監督はこの事件に、どうアプローチしてくるのか・・・。
作品で描かれるのは、事件直後の現場に駆け付けた、港湾警察の警察官たちの姿。と来れば、事件に巻き込まれた人々を救い出す彼らの活躍を奇跡の物語として描いた映画か、と思いがちなところですが、さにあらず。確かに人々を助けるために命がけで現場に踏み込んだ彼ら、ではあるのですが、あまりに巨大な事件の規模、一体何が起きているのかを充分に把握する間も無いまま、ビルの倒壊に巻き込まれて生き埋めになってしまう。人々を救助するどころか、自らが瓦礫に挟まれ大怪我を負い、全く身動きもとれないままひたすら救助を待つ身。
そういう意味では、主人公が超人的な活躍をするヒーロー映画では全くありませんが、いや、そもそもこの、絶望の中で必死に生き延びようとする姿こそ、ヒーローの姿ではないか、という訳で。
主人公たちが瓦礫の中で全く身動きできない状況を映画は描き、これだけだとどうしても映画自体に動きが無くなってしまうのですが、彼らの安否を気遣う家族の姿を並行して描くことで、物語に起伏をつけています。しかしそれにしても、自分の体がどうなっているのかすらよくわからない状況の中、暗がりの中で気力も失いかけていく状況の中、埃にまみれ表情すらも読み取りづらい主人公たちの姿をどこまでも描き続けるこの映画のある種異様な映像は、しっかり作品を特徴づけ、印象づけています。
やはりオリヴァー・ストーン、一筋縄ではいかない。
動かない瓦礫、動けない体、一見、物語も動きがないように思えたりするかも知れませんが、それらの「動かなさ」ゆえ、ようやく主人公たちが発見され救助隊が駆け付けたとて、本当に無事に彼らをこの瓦礫の下から救出できるのか、最後まで目が離せません。
そしてその死力をつくしたサバイバルと救出劇の末に、主人公たちが2人、ベッドに並んで治療を受けている姿は、ホッとしたりもするし、ユーモラスでもあるし、また感動的でもあります。