3.《ネタバレ》 いやぁ邦題が先ずウマイ。モロ直訳すりゃ「疑惑」になっていたハズ。クライマックスを知らない観客にとっては観終わった後で「成る程」と腑に落ちる何ともニクイ仕掛けである。当時の配給元の邦題センスの良さを知らしめる格好の一例であろう。原作は異色の倒叙推理というジャンルを大成させたフランシス・アイルズの「犯行以前」。1941年当時の映画モラルは相当に廉潔だった為、結末がハッピー・エンド(風)に改変されているのが原作との最大の相違点だ。ヒッチ先生にとっても恐らく不本意ではあったろうが、渡米後間もない不安定な立場ではリスクは避けねばならず、原作の忠実な再現は泣く泣く諦めたに違いない。しかも前作「スミス夫妻」が今イチだった直後となれば尚更である。原作を踏まえた上でこういった当時の背景を念頭に置きつつ観ると本作は一層その輝きを増す。ケーリー・グラント扮するジョニーが自分を殺そうと企てているのでは?という疑念に駆られるフォンテーン演じるリーナ。彼女をラストの土壇場まで容赦なくギリギリ追い詰めるヒッチ先生の布石・伏線の鮮やかさを、後の有象無象のサスペンス、スリラー物でどれだけ安易にパクったかを思い合わせれば本作の有する歴史的価値も強ち軽視できまい。第一あのラストにしてもジョニーが真に善人なのかどうか誰も客観的には検証していないのである。飽くまでヒロインだけが「ああ~良かったわん♪私の思い過ごしだったのねん☆」と一人納得しているだけで!そうして二人は再び”光る牛乳”の日々へと戻って行く…とも深読みできる曖昧さをヒッチ先生は確信犯で狙ったと個人的には思うけどナ。時代に屈した、と見せかけてシッカリ我が意を通した(であろう)稀有な逸品に…9点!エ?深読み過ぎ?ミステリ好きならコノ程度は”序の口”ってモンさw。