37.《ネタバレ》 「この世界の片隅に」の名の通り、同時代に生きた方々の表に出ていないエピソードは五万とあるんだろうなぁ。 涙涙で改めて戦争とアメリカが嫌いになりました。 柔らかタッチな絵とのんの語り口が秀逸。 屈指の反戦映画です。 【すたーちゃいるど】さん [地上波(邦画)] 9点(2023-08-14 17:22:11) |
36.《ネタバレ》 戦時中の広島が舞台の映画というとつい身構えてしまうのだが、本作は広島から呉に嫁いできた主人公・すずさんを中心にそこに生きる人々の日常を描いていて、あくまでも戦争はその延長線上にあるという描き方をしている。リアルで丹念に丁寧に優しいタッチで描かれるすずさんたちの日常も作り手が登場人物たちと同じ目線に立ってとても大切にしている感じがして、見ているこちらもこの日常がとても身近なものに感じられ、登場人物たちに自然と愛着というか親近感がわいてきて、とても愛おしくなって、ああ、ただ戦争が背景にあるというだけの違いで、すずさんたちの日常は今の自分たちと変わらないほど普通だったのだと思えてくる。だからその背景にある戦争も決して異常なことではなく、ごく当たり前に普通に身近にあるものだと感じられるのも当然なことかもしれない。そう思うと変に身構えることなく、すっと入っていけた。本作は反戦映画だが、戦争や原爆の悲惨さを直接的に描いて反戦を声高らかに訴えかけるようなことはしていなく、特有の硬さも感じられないところが戦争や原爆を扱ったほかの映画と大きく違う点だが、そういうところをあえて描かなくても、反戦を声高に叫ばなくても、その時代を普通に生きて暮らしていた人たちがいるというだけで、伝わってくるものがあるし、きっと監督のメッセージはそこにあるのだろうと思う。また、どうしても暗く重くなりがちというイメージもある題材だが、すずさんたちの日常がユーモアを交えて描かれていることもあって、楽しく見ていられる部分が多かったのも良かった。(しかしこれを通して戦争中だからと常に緊張感を強いられ、おびえて暮らしていたわけではないことがよく分かる。)登場人物たちは誰もが魅力的に描かれているが、やはり何といってもすずさんの健気さがたまらなく、夫・周作さんの姉である径子さんの子供である晴美さんを守りきれなかったことと自らも右手を失くし、(今までいろんなことをしてきた右手のことを思い出しているシーンが切ない。とくに好きな絵を思うように描けなくなったことはどんなに悲しかっただろう。)家の手伝いができなくなったことで、居づらくなり、出ていくことを決めるいじらしさも泣かされるが、険悪になっていた経子さんと和解するシーンのやりとりがまた良い。それにやはり、玉音放送のあとでやり場のない怒りを泣きながらぶつけるシーンはすずさんの気持ちが痛いほど伝わってきて、普段、おっとりしているすずさんだからこそよけいに胸に迫るものがあり、思わず一緒に泣いてしまった。そんなすずさんの声を演じるのん(能年玲奈)の声も見事に合っていて、すずさんの声はこの人以外にない、そう思えるほどに素晴らしかった。(「あまちゃん」を見たとき、あまりにアキ役にはまり過ぎていて、これ以上のハマり役に出会うのは難しいのではと思っていたけど、そんなことはなかったようで一安心。)まさに日本映画だからこそできる映画で、絶対に名作として今後後世に残っていくであろう映画であることは間違いない。いや、ぜひ残していくべき映画だ。 【イニシャルK】さん [DVD(邦画)] 9点(2020-12-29 17:57:43) (良:2票) |
35.《ネタバレ》 年々戦争の時代は遠い昔のことになっていく。戦争体験を語ることができる人も少なくなっていく。 それは実際に戦場で戦い、過酷な体験をした男たちの話も、 物資や食糧が不足し、空襲にさらされながらも日々を懸命に暮らした女たちの話も。 本作はこれからも多くの人に観られて、戦争を考えるきっかけになる作品になっていくのではないかと思います。 声高に反戦のメッセージを訴えることはしませんが、庶民の暮らしが少しずつ厳しくなり、 食卓が淋しくなり、近所の若い男が徴兵にとられ、次第に空襲に日々の暮らしが脅かされる。 空襲で幼い命が奪われ、ついには原爆が投下され、日本は戦争に負ける。 丁寧に綴られていく庶民の日々の暮らしと戦争の描き方も、 「空襲のおかげで魚がようけ獲れた。」 控え目に挿入されるユーモアも素晴らしい作品です。 【とらや】さん [CS・衛星(邦画)] 9点(2019-08-08 16:23:37) |
34.《ネタバレ》 日本人なら皆知ってる1945年の8月6日と8月9日、そして8月15日。 変な視点かもしれませんが、そこに生きる人々は、環境が違い、環境からくる行動が違い、環境からくる感情が違い、表現の仕方が違う。それでも根っこにあるものは今生きる人と変わらない。そんな印象を受けました。 本作のすずさんの日常的な感覚が当時の日常を生きた人の感覚と捉えれば、今の日常を生きる人の感覚と比べて何ら違いは無い。自分の信じた選択をしてガンガン前へ向かっていく人もいれば、ぼや~っとしてて周囲に流されるままの人もいる。頭ではゴチャゴチャ考えながらも、結局周囲に流されるままの人もいる。昔本当は好きだった人がいても、結局その想いは心に残したまま、全然別の人と結婚する。毎日毎日同じ作業の繰り返し。その中で自分とは折り合いがつかない人もいる。 歳と経験につれて死は日常になりつつも、自分の家族の死にはやはり涙する。 自分の選択を後悔する。しかし後悔しても何も変わらないという事にも気づく。 死んだ人が自分の息子だとは気づかなかった。遠くで突然光った光は「ん?何?」程度に思う。玉音放送に怒りを覚える。 なんというか、すごい「日常的なリアルな感覚」が詰まっていて、当時の人は現代の自分とは違う、と心のどこかで思っていた自分が凄く恥ずかしくなりましたね。違うわけないのに。 日本の戦争映画というジャンルにはまるで詳しくありませんが、見て良かった。 今は日曜日。自分はどうせきっと2日後にはそんな感覚も忘れて仕事してる。自分の日常に埋没する。でも、この映画を見るという選択をした自分を、少なくとも今この瞬間は褒めてやりたいね。 【53羽の孔雀】さん [地上波(邦画)] 9点(2019-08-04 18:48:11) |
33.《ネタバレ》 <原作未読>前半はやや飛び飛びにも思えたが、空襲が始まってからというもの、正座して見ちゃうくらいのクオリティだった。日本人であれば8月6日に何が起きるかはよーく分かってるんで、そこに向けてだんだん緊張感が高まっていくんだけど、すずさんは運命のいたずらというのか、呉に留まっていたため助かる。そして終戦。あれだけ疲弊していたにもかかわらず玉音放送を聞いて「あー良かった~」と単純に喜べた人なんて殆どいない。日本が負けた悔しさもあるが、失ったものが大きい人ほど「じゃあこの戦争はなんだったの?」と怒りの度合いも大きくなるんだな。ほんわかしてたすずさんが見せた大粒の涙にはびっくりした。ただ、やっぱり人間の適応力って凄いもので、戦中、戦後と大変な時代にあっても全く笑顔が無かったわけでもないということ。占領軍の残飯雑炊を食べて「うま~」っていうシーンは最高だね。もう前を向いて歩き始めてる。毎年、この季節になるとあの戦争を振り返るのがもはやこの国の習わしだ。「火垂るの墓」を見て育った世代だが、あちらはちょっとつらすぎるんで、この映画が夏に流されるアニメ映画の定番になればいいな~と思う。最後になるが、主人公の声を務めたのん(能年玲奈)の貢献度は計り知れない。普通のトーンから喜怒哀楽に至るまで、すべてが素晴らしかった。 【リーム555】さん [地上波(邦画)] 9点(2019-08-04 13:45:04) |
32.映画終盤、空襲日誌で8月6日へのカウントダウン見せつつ「広島へ帰る」という展開がもう鬼。ただこの展開が演出じゃなくずっと変わらぬ時間の流れの中で展開し、8月6日もクライマックスではなく(ちょっと変わった出来事が起こった)1日の1つとして描かれている。戦局とすずらキャラクターの変化もその日々の積み重ねの上で変わっていく。そこがこの映画の良さである。 【Arufu】さん [インターネット(邦画)] 9点(2019-08-04 00:43:46) |
31.最近も吉村昭の「戦艦武蔵」を読んでたら、この巨大戦艦を建造するという計画が極秘中の極秘なもんで、造船所の方を見てたというだけで一般人が片っ端から連行されてしまった、みたいな話が出てきて、巨大戦艦建造という一大プロジェクトの前には、個々の人間の運命なんて芥子粒みたいなものなんですけれども(そしてその膨大なエネルギーが注がれたプロジェクトの、果敢無い顛末)。 で、本作でもやっぱり、主人公がうっかり港の絵を描いてしまったばかりにどえらく叱られる場面がありますけれども、本作から受ける印象って、真逆なんですよね。戦時下だろうが何だろうが、あくまで市井の人々が中心にいて、その一人であるにすぎない主人公の姿が描かれる。その喜怒哀楽こそが、重大事件な訳で。戦時下には戦時下の暮らしがあって、「たくましく生きている」と単純には言えない、つらさ、恐ろしさとも向き合わなければいけないんだけど、やっぱり生きている以上は、生活していくしかない。そのとめどなく続いていく日常、ってのは、やっぱりこれは「たくましさ」なんだよなあ、と。 でも、かけがえのないものを失う悲しさ。物語の前半に登場する「指さし」の仕草が、印象的で。 【鱗歌】さん [DVD(邦画)] 9点(2019-08-01 22:00:28) |
30.《ネタバレ》 良い映画。とても丁寧でクオリティが高い。戦時中の人たちの暮らしぶりがよくわかる。考証がしっかりしている様に思う。すず役ののんもよかった。ほんわりしたすずが戦争に突入し険しい日々を健気に乗り越えていく様をよく演じていたかと思います+絵の雰囲気にもよくあってた。ヒットしたのもうなずける良質な映画でゴザイマシタ 【Kaname】さん [CS・衛星(邦画)] 9点(2019-05-28 11:00:44) |
29.《ネタバレ》 一言で言えば「太平洋戦争前後を舞台にものすごく丁寧に描かれたサザエさん」 丁寧に丁寧に独特の空気感で描かれたこの映画が絶賛されるのはとてもよくわかります。 製作者の熱意が半端ない事が、観ていてこれだけ伝わる映画もそうそうありません。 私の父は、この映画のヒロインより少し年下のはずなのですが、映画中にもそういうシーンがあるように実際に学徒動員で兵隊にとられていて、ただそのときすでに昭和20年。 タイミング的にはすずさんの旦那さんが兵隊に転換になった時期くらいで、実際に戦場に出る前に戦争は終わりました。 (もう沖縄まで落ちてたわけで内地の人間は本土決戦に備えるしかない時期だったわけですから) そして父が戦場にいかなかったおかげで、今現在、私はこの世界の片隅ですごせているわけです。 映画中でも原爆のタイミングですずさんが呉にいたのか広島にいたのか…は本当に紙一重の運でしかありません。 そもそもすずさんがあの家に嫁入りしたこと自体、本当に子供の頃のただの偶然だし、時限信管の爆発に巻き込まれてしまうのも実は本当にささいな偶然です。 つらい事もあり楽しいこともある現在の自分の状況は、歴史の中で語られないレベルの本当にささいな偶然の連鎖の中で生まれたものにすぎないという事がとてもよくわかる映画だと思います。 で、そんな今の自分を前向きにとらえるか後ろ向きにとらえるか…それは全部自分自身で決める事なのです。 特別なヒーローなんかじゃない、この世界の片隅でほそぼそと生きている平凡で非力な人間に出来る事はそれくらいしかないわけですから、だったらせめてそこはポジティブに捉えた方が人生何かと幸せなんじゃないでしょうか。 【あばれて万歳】さん [インターネット(邦画)] 9点(2019-05-17 15:38:38) (良:1票) |
28.《ネタバレ》 話題になっていたので気になっていましたが、戦争モノの様でしたので避けていました。強く反戦を掲げている訳でも説教くさい内容でもなく、普通というか平和っていいなと改めて考えさせられました。両親は戦時中の生まれで、すずさんは丁度僕の祖父母の世代になります、当時の様子を聞こうにも、両親は知らないし、祖父母ももう亡くなっていいるので、もっと当時の事を聞いておけばよかったかなと思いました。唯一戦時中の話を聞いたのは、叔母さん(母の姉で当時10歳ぐらい)の話です。「怒られるかもしれないけど、遠くに見える空爆が花火みたいで綺麗だった~」と言っていたのを覚えてて、すずさんが空襲されているときに絵の具があったらなぁと漏らすシーンと重なりました。あと、お爺さんが市役所勤めだったため兵隊には取られなかったので、叔母さんは同級生から嫉まれてちょっとしたイジメの様な事もあったそうです、叔母さんにとっては理不尽な話ですが徴兵に取られた子の悲しみというか遣り切れない思いが伝わってきますね。 【ないとれいん】さん [インターネット(邦画)] 9点(2019-03-18 10:55:30) |
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27.《ネタバレ》 話題になっていたので、どんなものかよく知らないまま2016年の暮れに妻と映画館で観賞。 正直伏線というものに鈍感な私は一度で気付かなかったことが多く、二週間後にもう一度一人で観賞。 人生を折り返したであろう40代半ばにして、初めて映画を一人で観に行った記念すべき映画であります。 何故か懐かしく感じてしまう、不思議な映画でした。 戦争とはすっかり無縁になってしまった現代の日本ですが、わずか70数年前にはこんなにも悲惨な戦争があり、 そんな中でも笑顔を絶やさず命を繋げていこうとする人々の姿が印象的でした。 人々の生活を中心に描いてるが故に、暴力的なシーンが少ないにも関わらず、戦争の悲惨さや当時を生き抜いた 人々の想いがリアルに表現されています。 また新たな発見を期待して、いつか観賞したいと思います。 【きーやん】さん [映画館(邦画)] 9点(2019-01-06 03:31:38) |
26.《ネタバレ》 素晴らしいの一言に尽きる。あの時、あの時代を生きた市井の人々のささやかな幸せが圧倒的な暴力の前に無残に崩れ去る。平凡な人々が胸に抱いたであろう静かな怒りに胸が震えました。すずを演じたのんの嵌まり方も良かった。またいつか観てみようと思います。 【かたゆき】さん [DVD(邦画)] 9点(2018-08-11 03:35:57) |
25.戦争映画はどうしても他人事のように思えて実感が湧かないことが多かったけど、この作品は丁寧に日常生活を描いているので、共感出来る部分が多かったように思う。 悲しい物語ではあるけど、すずさんのほんわかした性格のお陰で、悲しいだけじゃない何かがあるように感じました。 いい作品です。 【もとや】さん [DVD(邦画)] 9点(2018-06-23 16:21:44) |
24.すずさんよ 嗚呼 すずさんよ まる子みたいな すずさんよ 今でもご健在とのことでなにより。 今でもカープの応援でマツダ球場まで通われてるんですってね。きっとあの球場のどこか片隅にいらっしゃるんですね。 【3737】さん [CS・衛星(邦画)] 9点(2018-03-31 20:33:26) |
23.《ネタバレ》 実は私は呉出身なのですが、ここ数年の邦画ではダントツの評価を得た本作が地元の話であったことから過剰に身構えてしまい、鑑賞時期を逃しているうちに結局Netflixの配信で見てしまうという、何だかよく分からん状態での鑑賞になってしまいました。 まず驚いたのがネイティブかと思うほどうまい広島弁と、地元出身者ならおおよそどの地区のことなのかの察しがついてしまうレベルで呉市街地や山あいの集落が表現されていることです。さらには、一瞬映る盆灯篭など、広島県民ならピンとくるが他の地域の人には分からないような風習までが表現されているのですが、これ見よがしではなく本当に些細な描写でこれらを見せてくるため、物凄く気が利いているように感じました。 また地域性の再現度だけでなく、時代性の再現度も非常に高いレベルであることが本作の特色となっています。例えば、しばしば本作の類似作として挙げられる『火垂るの墓』などは顕著なのですが、主人公・清太は完全に戦後の価値観で動いているわけです。私のような細かい人間はそうした部分にウソ臭さを感じてしまうわけですが、本作については登場人物全員が当時の価値観で動いており、後知恵で善悪等を判断していないことが、他に類を見ないリアリティに繋がっています。配給が減って生活が苦しくなっても国や政府に対して不満を口にする者はいないし、隣組や軍事教練といった戦後社会においては異様とされてきた戦時体制についても、みんな当然のこととして受け入れています。これらのことが良いか悪いかという判断は置いといて、当時の人がどう生活していたのかという点にこだわり色を付けない描写とした辺りに、作り手側の善意を感じました。 玉音放送の受け止め方も、ユニークだが真を突いていると思いました。放送が終わると「あ~、長かったねぇ」なんて言ってみんな平静を装って日常に戻っていくフリをするのですが、各々隠れた場所では感情を爆発させています。しかもそれが怒りとか悲しみとかというありきたりなものではなく、今までさんざんガマンして苦労して、多大な犠牲を払ってまで戦争という国家事業に参加してきたのに、「負けました」では気持ちの整理がつかない、やるせないという感情なのです。この切り口には驚かされると同時に、ある種の説得力も感じました。 その他、軍艦や戦闘機といった兵器のかっこいい描写があったり、美しさを伴った破壊があったりと、ただただ悲惨にというベクトルで戦争映画が作られることの多い日本映画界では例外的に、ミニタリー要素も充実しています。とにかくさじ加減がうまいのです。 海外では「戦争をテーマにした日本のアニメにはずれなし」との定説もあるようなのですが、本作はその頂点に君臨しうる重要作だと思います。 【ザ・チャンバラ】さん [インターネット(邦画)] 9点(2018-03-24 03:03:37) (良:7票) |
22.後半からの展開が本当に心揺さぶされる。本当は残酷で悲しい話だけれど暗くはならない、させない、そして涙と笑いも両方自然と出てくるすごい映画だった。さすが高評価だけあった。 前半やや退屈気味だったし、のんの声も微妙に合わなかった印象だったけど、それもすっ飛んだ。邦画でこれはヤバいと感じたレベルの作品 【ラスウェル】さん [DVD(邦画)] 9点(2018-01-25 13:20:50) |
21.とにかく、”のん”こと能年玲奈の声が素晴らしい。とても重要な要素だ。 わたしの母は広島の女学校出で、すずさんと同年代である。足が悪く映画館に連れていけないが、DVDになったら早く見せてあげたい。 そのあとにコメント付け加えようと思う。 【爆裂ダンゴ虫】さん [映画館(邦画)] 9点(2017-05-29 23:39:16) (良:1票) |
20.映画が小説や漫画、音楽と決定的に異なる点は一人では作れないことだ。そのことによって映画はとかくツギハギのように一貫性のない作品になりやすい。そのような作品はハリボテのように中身がない。見る人が見ればまがいものであることがわかってしまう。特に原作があったり、脚本と監督が異なる映画ではしばしばこれが起こる。 しかしこの映画はどうだろう。ストーリー、アニメーション、音楽、さらには声優の演技までが何か共通した意識、意図を持っているかのようにまとまっていて、一つの美しい世界観を創り上げている。 特に素晴らしかったのはキャラクターの愛しらしい表情や仕草だ。柔らかく自然でまるでかわいい草食動物でも見ているようだった。やはりアニメは良い作画があってこそだと改めて思った。 そしてもう一つ言わねばならないのが主人公すずの声優である。あれをどう説明したらいいのだろう?もう声優なんてものは存在していなくて、すずそのものがただそこにいる、そんな感じだった。あとで一体この声優は誰なんだと調べてみたら「のん」という聞きなれない名前があって、どこぞの新人さんかと思いきや、それが能年玲奈だとわかって衝撃を受けた。いろいろと問題の多い彼女だが、その原因はその人並み外れた感受性の強さが原因なのかもしれない。いずれにせよこの素晴らしい力があるなら彼女がエンターテイメントの世界から消えることはないだろう。彼女を必要とする人はこれからもきっといるはずだ。 穏やかでのんびりと、ときに和気藹々と、みんなで力を合わせて辛いことを乗り越えて、それでも悲しいことは起こる。それでも前を向いて歩いていく。世界の残酷さと人の強さを正面から描いた素晴らしい映画だった。 【ばかぽん】さん [DVD(邦画)] 9点(2017-04-02 12:53:38) |
19.《ネタバレ》 本作の原作漫画を遥かに凌駕する映画的演出で特記すべきは、まずは、呉の嫁ぎ先のロケーションです。山のふもと。斜面の畑。石垣。晴美と呉港を見渡して会話するシーン。 タンポポを飛ばすシーンで、周作と並んで石垣の上に座る場面など、高低と奥行きの描き方が圧倒的。そして呉で初めての大規模な空襲のシーン。「こんな時に絵具があれば」というモノローグ。青空に連続して描かれる破裂する爆弾。なんて美しい表現でしょう。また、時限爆弾の後の、黒地に線香花火のような落書き風の処理。こういうの、実写でやってもいいよなぁ、と思いながら見ました。 さて、もう一つ、大雑把な云い方ですが、映画を見た際に誰もが感じるであろう、隠喩の豊かさについても、原作で既に描かれているか検証したい、と強く思いました。 そこで、象徴について追記。やっぱり、本作において最も重要な色彩は白色なんだろうな、とつらつら思いました。思いつくまま白い色をあげてみます。 例えば、タンポポや白鷺の表すもの。金床雲とキノコ雲。ばけ物と鬼(ワニを嫁にもらうお兄さん)。或いは、ネーミングによる多重性、すずとりん、すずの妹の「すみ」(片隅のすみではないか)、「ふたば」という料理屋。遊郭「二葉館」。 これらは殆ど、原作通りですが、映画における白鷺のメタファーは原作をかなり超えるものです。 白いタンポポ。タンポポの綿毛。白鷺。白鷺の羽。波間の白うさぎ。白粉、白粉をふった、すずの顔。雲。アイスクリーム。包帯。砂。糖。白米。 ところで、これは映画的な話ではないので恐縮なのですが、御多分に漏れず、私も映画を見た後、気になって原作を読んだクチです。 何を一番確認したかったのかというと、実は冒頭の扱いでした。この映画を見た際に最も驚いたのは、冒頭、アバンタイトルで、幼いすずが船に乗って一人広島市内へお遣いに出ますが、その際にBGMとして讃美歌「神の御子は今宵しも」が流れ、広島市では、クリスマスの装いが描かれるのです。ちょっとこれには驚きました。 タイトルバックの「悲しくてやりきれない」以上に、このクリスマスソングに驚いたのですが、原作ではこのシーンは昭和9年1月の出来事として、描かれており、明かな片渕須直による改変なのです。 原作と映画との相違では、この部分は大して重要じゃないかも知れません。こゝよりも、夫・周作の過去の扱い、遊郭の女・白木リンの扱いの方が大きいかも知れません。 ただ、私にとっては、本作がクリスマスの映画として始まる、というのは決定的に重要な細部です。 【ゑぎ】さん [映画館(邦画)] 9点(2017-03-28 05:40:00) (良:1票) |
18.《ネタバレ》 ◇小さなころからのすずと家族、市井の日常を丹念に描くことで、観客はすずの親戚にでもなったような親近感を抱く。 ◇一緒に泣き笑い物語は進むが、その日が近づいてるのを、すず達は知らない。観客は知っている。 ◇あっけなく奪われる日常。それでも、人々は、生きるためにたくましく日常を取り返す。 ◇この映画に出会えたこと感謝します。 【ハクリキコ】さん [映画館(邦画)] 9点(2017-03-05 10:28:25) |