1.《ネタバレ》 アンソニー・ホプキンスのアカデミー主演男優賞獲得も納得の重厚な傑作である。
以下、私のプライベートな事を記述する事をお許し頂きたい。
私が本サイトにレビュアーとして登録したのは2008年、実に13年も前の事だ。
時間だけは万物に平等なので、私自身の生活・環境も相応に変化している。
所謂、「人生の荒波に揉まれた」と言う事なのだろう。
私の父は私が4歳の時に病死した。
以来、独り立ちする22歳までは母親が私も含む子供3人を女手一つで育て、大学まで行かせてくれた。
私自身も社会人となり、金を稼ぐ事の大変さを身を持って知って以来、母には感謝しか無い。
そんな母は3年前から認知症を患っている。
子供に取ってある意味親は絶対的な存在だ。
今も思い出すのは、夜遅くまで内職していた姿。
いつも気を張り頑張っていた姿。
そんな母が認知症を患い、元気だった頃には想像もしなかった姿を
目の当たりにするのは、人生観が変わる出来事だった。
私は常々、何故母はこんな言動をするのだろうか?と思いながら接しているのだが、
本作のアンソニー・ホプキンスは認知症を患った側の立場を、
半ば恐ろしさを感じさせる程の演技で擬似体験させてくれる。
本作で表現された事が認知症患者の全てを語っている訳では決して無く、
まだまだ甘いと思われる方も大勢いるだろう。
でも私は、今正に身内が認知症で色々な思いを抱えながら日々を生きている方々は勿論、
まだ実親が高齢では無い年代の方々にも本作を是非とも観て頂きたいと心から願う。
ハッキリ言って救いは無い物語だ。
でも、人間としてこの世に生を受け生活しているならば、
決して目を背けてはならない世界が本作には有る。