7.《ネタバレ》 ラジオ・パーソナリティがリスナーと延々と議論を繰り広げる映画と聞いて、限定状況下での話とは面白そうだな!と思い軽い気持ちで鑑賞したのですが、予想の遥かに上を行く恐ろしい映画でした。
主人公のバリーはあるジレンマを抱えている。全国ネットで自分の番組を持つことはパーソナリティーにとって非常に大きなステータス、しかし彼の信念は"何でも言える番組"だ。大企業がバックに付いたからといって、放送内容に規制が入ることを彼は頑として拒否する。
しかしその自由奔放なトーク内容によって育ち上がったのは端的に言うと極右思想だ。「ユダヤ人虐殺はでっち上げだ」「ユダヤ人は首吊りにしてやる」「白人のカネがよそ者(移民)の助成金に使われるのは我慢ならん」「ホモは地獄に行け」「言うことを聞かないガキはベルトでメッタ打ちにする」「近所に住む移民が気持ち悪い」etc...聞くに堪えない戯言が毎日の様に彼のラジオには電話でかかってくる。
物語の主張が明確になってくるのは、ケントがゲストとしてスタジオに登場してからだ。バリーは彼に「今日のテーマはアメリカついてだ」と言い様々な話題を振るが、如何にも80年代のノー天気なロックに嵌っている風貌のケントはちゃらんぽらんな回答を繰り返す。その後、他のリスナーに話を振っても返ってっくる言葉は「あんたイカスぜ!」「大ファンなのよ!」等、バリーが求めるリスナーの姿からは程遠い。彼の番組はリスナーと同様に計らずとも空虚な存在に成り下がっていた。この時のバリーの絶望感といったら筆舌に尽くし難い。ラジオとは言え表現の発信者としてこれ程打ちのめされる展開も中々ないだろう。
その度にバリーは彼等に同様の汚い言葉を浴びせかけ、罵り、糾弾する。最後のメッセージは「お前等は何者でもない。考える脳味噌もなく、権力もなく、未来もなく、希望もない!何もない!」という台詞だ。頭にあるのは気に食わない人間を見つけ、執着し、攻撃し続ける事だけ。最終的には対象の命を狙う。しかもこれはデンバーで実際に起きた殺人事件を元にしているらしい。何と恐ろしい話だろう。
違う意見を持つ者を攻撃し続ける不特定多数の悪意を描いた傑作です。観終わってからフト気づいた。「あれ?これ今の日本じゃね?」