6.《ネタバレ》 フェデリコ・フェリーニは「道」も良い映画だと思うけど、俺はこの映画の方が希望があって好きだ。何よりファーストシーンから一気に引き込まれた。
川原で走る男女の姿をロングショットで捉えた場面。
男がいきなり女を突き落とし、女のカバンを持って逃げていく。
女は男の名前を怒りと絶望の混じる声で叫ぶ。
それを近くで泳いでいた子供と教師たちが助け出す。
逆さにして水を吐かせ、気付いたかと思うとガバッと起きて再び男の名前を叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ。歩いて走って歩いて。まだ回復しきれていないのか、倒れ込み抱きかかえられる。
これがカビリアの物語のはじまり。
水に濡れた時のすっぴん姿の方がキレイなのに、何で厚化粧をするのやら。
普段は羽織とダボダボのズボンを着てオバサンのように過ごすカビリア。だが本当はズボンをまくりその脚で男を誘惑する夜の女である。
夢見る女性のカビリアは何度男に騙されようと、何度仲間達に馬鹿にされようともめげない。過去の男を“火葬”してはまた果敢に挑んでいくタフな女性。何度泣かされようが諦めねえ。
音楽を聞いただけでつい踊りだしてしまう陽気さ。
人が集まる祭りよりも、男の心を掴めるか掴めないかが彼女にとっての祭りである。
そんな彼女もイケメン俳優に目の前で“仲直り”するシーンを見せられちゃヘコむか。
哀しげな影、影、影。彼にとって、カビリアも可愛がる犬のようなものだったのだろうか。
ヴァンダの姉さんは本当に良い姉さんだ。
教会に行き神にすがるくらいだ。日本で言えば神社のお参りみたいなもんかな。
だが「道」を見た者なら解る通り、神様とやらが助けてくれるワケが無え。
フェリーの映画には手品師や芸人といった観客を愉しませる人間がよく出てくるが、さしずめカビリアは哀しき道化師なのだろうか。
涙でかすんだメイクが、道化師の涙のように滲む。
催眠が、魔法が溶けた瞬間の彼女の視点。
湖の圧倒的な美しさ、その目の前で怪しい眼光を向けて本性を出す人間の醜さ。
俺がカビリアを好きな理由は、何度フラれてもまた「次はモノにしたる」と笑ってみせる表情をしてくれるからだ。とっても元気の貰える映画です。