1.酔えました。ラストまで一部の隙なく酔えました。いろいろな形でこの古典に触れる機会はあれど、この作品ほど光源氏の身を切るような孤独を実感できたものはなかった。妖しいまでに美しい桜の花が、作品の中でちらちらと舞ったり、画面を埋め尽くすほどに潔く散ったりするのを眺めているうちに、杉井監督のマジックにかかってしまった。花が散るのはいずれ美がついえてしまう不安さを表している。ひとときの至福が、すぐにしぼみ、はらはらと掌からこぼれおちてしまうような不安定さがたまらない。桜の花びらはそのまま源氏のとどまるところを知らない人恋しさや、その気持ちが引き起こすトラブルを象徴しているような気がしてならない。この作品はストーリーを知るという目的で見るよりも、あらかじめ物語を予備知識に入れてから鑑賞した方が、より深い味わいを得られると思う。