1.《ネタバレ》 『ペット・セメタリー(1989年)』では、えらく小さい子にえらくエゲツない役を演じさせてて、ホントに大丈夫かよ、と思ったのですが、この『マーキュリー・ライジング』を見る限り、その後も立派に活躍されているようで。ただし、今、何をやってるのかは知りませんけどね。
一方、ブルース・ウィリスはというと、これはもうテレビシリーズの『こちらブルームーン探偵社』のヒトであって、だからアクションと全くの無縁ではないとは言え、やっぱりアクション・ヒーローとは異なるタイプ。だからこそ『ダイ・ハード』のマクレーン役にもピッタリだったタイプ。なのに、ダイ・ハードのシリーズ化とともに、アクション俳優としてもてはやされてしまい、ホントに大丈夫かよ、と思ってたら案の定、1990年代は迷走気味。次々にアクション映画で主演をこなすも、これぞというものがなく、シリーズ化すりゃいいってもんじゃないとは言え、結局、「ブルース・ウィリス単独主演」と言える映画でダイ・ハード以外にシリーズ化されるほどの広い人気を得たものは、見当たらず。で、今の彼はというと、皆さんご存知の通りで。唯一無二の映画人生を歩んでこられた、とは思います。
で、この『マーキュリー・ライジング』も、迷走していた90年代の主演作の中に埋もれた一本、ということになり、唯一目立つ点があるとすれば、ラジー賞を獲っちゃった、という程度ですが、いくら何でも『アルマゲドン』とセットでの受賞、って、そりゃ無いんでは。
役どころは、自閉症の少年を守るFBI捜査官。少年はその特異な能力ゆえ、命を狙われ、彼の両親を殺害されてしまっている。自らの孤独な身の上を少年が認識しているのかどうかわからないのがまた、哀れを誘います。
が、主人公が少年を守ろうとする理由はそれだけではなく、彼自身、かつて潜入捜査官だったときに、犯人グループにいた少年がFBIに射殺されるのを防げなかった過去があって。単なる同情ではなく、善悪すらも関係なく、ただ、今度こそ目の前の少年を守らなければいけない、という意志。
自閉症という少年のそのキャラクターゆえ、通常の意味で二人の間のコミュニケーションは成立せず、そこに、主人公の不器用さ、みたいなものが浮かび上がってきます。アクション映画と言ってもアクションシーンはやや控えめ。むしろ、次に何をするかわからない少年の言動が、アクションシーン以上に、物語に起伏を与える原動力となっています。
描かれるのはもちろん主人公と少年だけではなく、たまたまカフェで知り合った女性を物語に絡ませるのも、いいですね。「いや、この女性も敵の一味だったりしないか?」などという疑問を我々が持って意識が逸れてしまわないよう、彼女の独り言を挿入して、善意の第三者であることが映画の中で確認されます。そもそも一般市民である彼女が、どこまでこの困難な事態に対しに協力してくれるのか、ということ自体が、充分なサスペンスを孕んでいる訳で。実際、彼女の物語への絡みは、深入りし過ぎず、しかし充分なインパクトを残します。
さらには、主人公には数少ないながらも協力者がいたりするのですが、それはFBI内部だけではなく敵方の組織の人間でもあったりして、これらの人物の妻なりガールフレンドなり、といった人たちも登場します。これらの人たちの存在は、物語の中では決して大きなものではないとはいえ、この作品の幅を広げるのに何と貢献していることか。
ラストシーンは、ちょっと甘いとは言え、ホッとさせるものがあります。
充実した映画、だと思うのですが、どうでしょうか。