1.《ネタバレ》 この作品は1953年公開、つまりあの『ゴジラ』が世に出る前年の映画なんです。つい2年前まで日本はGHQの占領下、もちろんそんな時には時代劇すらダメで大作戦争映画なんて製作させてもらえるわけもなく、やっと太平洋戦争の海戦ををテーマにした映画が撮れるようになったころです。ちなみに新東宝の『戦艦大和』も同年の公開。 この映画は山本五十六が主役で戦死するまでを描いたストーリーで、いわばこの作品をリメイクしたのが68年の『連合艦隊司令長官 山本五十六』だったという感じでしょうか。大河内傅次郎が山本五十六を演じているのですが、三船敏郎なんかよりも雰囲気自体は出ていたような気がします。しかし時代劇の大スターですから演技自体は時代劇風で、おまけにセリフが滑舌が悪くて聞き取りにくい、もっともミッドウェイ海戦以後のシークエンスではセリフすらほぼなかったですけどね。また戦闘シーンは戦前の東宝戦争映画からそのまんま流用、冒頭の山本五十六が新型艦上戦闘機を視察しているシーン、『翼の凱歌』の一式戦闘機・隼が飛行するところをそのまま使っているのでどっちらけです。その他にも『加藤隼戦闘隊』や『雷撃隊出動』の戦闘シーンも使われて、真珠湾攻撃はほとんど『ハワイ・マレー沖海戦』の映像でした。要は新規に製作したのはミッドウェイでの空母被爆シーンだけのようなものです。あとは記録フィルムも使われていますがこれまた繋ぎがデタラメで、大戦後期の艦上機がバンバン出てくるので、これではあの底抜け超大作『ミッドウェイ(76)』を笑えませんな。まあこれには『戦艦大和』の大ヒットに東宝が慌てて便乗した事情もありまして、本格的な東宝の太平洋戦争海戦映画は60年の『太平洋の嵐』ということになります。ドラマとしてもただ時局の推移をなぞっただけのような薄い脚本で、観るべきところもなかったです。