5.《ネタバレ》 ロジャームーア最後の作品ということで、どれほど末期的な状態かと思っていたら、意外と観れる作品に仕上がっている。
アクションに関しては、ムーアには端から期待しないという姿勢が現れていて、思い切りの良い作品になっている。あまりにスタントに頼りすぎていて、「オマエ誰やねん!」という場面も垣間見られ、映画としてはギリギリな仕上がりとなっているが。
冒頭のスキーアクション(何度目だ)から始まり、パリ市内でのカーアクション、競馬の障害レース(なかなか新鮮味あり)、火事からの脱出、消防車を使った警察との派手なカーアクション(死ぬのは奴らだのペッパー警官を思い出させる)、金門橋上での決闘というように、アクションに関しては見所が非常に多い作品だ。
ストーリーは「ゴールドフィンガー」をベースにしているだろう。ゾリンの計画に反対する悪党を派手な方法で殺すのも「ゴールドフィンガー」をなぞったものだ。
二人のボンドガールに関しては、なかなか新しい趣向ではないかと感じた。メイディは有能な殺し屋兼ガールというのはあまりいない(サンダーボールのフィオナくらいか)。また、ゾリンに裏切られたために、ボンドに味方するというのはジョーズの流れを汲んだものだろう(ジョーズにもこういう派手な散り方を期待したが)。
ステイシーは叫んでいるだけという批判をよく浴びるが、こういう空気に近いガールもなかなか珍しい。知識だけはあるが、世間ズレしたお嬢様という感じがよく出ていた。
ウォーケン扮するゾリンは精神的に問題ある試験管ベイビーという役柄であり、そのキレっぷりには期待をしたが、大した出番もなく、おいしいところは全部メイディに持ってかれてしまい、やや中途半端になってしまったのは残念だ。目玉は、証拠隠滅を図るための作業員大虐殺だけというのはもったいない。
個人的には、運転手役を演じたチベットとの掛け合いも面白かった。「私を愛したスパイ」でもストロンバーグの研究所をロシアのスパイのアニヤと訪ねたとき、秘書役という設定を利用して、その設定でムーアは遊ぶことがあった。こういう遊び心あるユーモアと余裕がロジャームーアボンドの魅力だった気がする。彼のボンドには賛否両論あったかもしれないけど、本当に長い間頑張ってくれたという想いが強い。ラストではロシアだけでなく、彼(とマニーペニー)に勲章をあげたいと思った人は多いのではないか。