5.《ネタバレ》 毀誉褒貶の激しい作品だろう。この世界に入っていける人とそうでない人とでは受けとめが真逆といってもいいほど違ってくる可能性があると思われる。ファンタジーとして割り切って見られれば、繊細で美しく、安らぎに満ちた世界として心地よいだろう。他方、リアリティを伴う視線で見ると、主人公二人は共依存の関係にある、かなりあぶない人たちと映るだろう。
私自身はどちらかといえば後者の感覚で見ることになった。女性が10歳以上年上というのは構わないし、先生と生徒のストーリーというのもまあよい。が、決定的だったのは、あくまで私の場合の話だが、少年はともかく、ユキノにほぼ感情移入することができなかった点である。社会的常識というものをふりかざして語る気はさらさらないのだが、どう見てもまともな女性とは思われない。まだ異性に疎いいたいけな少年が徐々にたぶらかされていく様子に危惧さえ覚えた(笑)。劇中、「ユキノちゃんはやさしすぎるんだよな」というセリフでユキノの人物描写が間接的になされ、弁護されるが、それはやさしすぎるというものではないだろ、とつっこみを入れたくなった。
物語の進行と人物のセリフも予定調和に終始し、特段どうということのないままエンディングへ(そのくせ主人公たちにはどこまでも美しく、都合よくすべてが運ぶ)。この世界にいつまでも浸っていたい向きには期待を裏切らないつくりではあったと思うが、見る者に何を伝えたいのかは不透明のままとも見えた。ちょっと辛口になるが、製作者たちはこのような視野の狭窄した世界に若者たちに生きてほしいと願っているのだろうか。また、「心を病む」ということを軽視しているところもある気がした。思うに、この時期の新海誠は、夏目漱石に相当思い入れていたのではないだろうか。