3.《ネタバレ》 立ち込める霧の為に鈍い黄緑色になった暗い山道を、黒く潰れたシルエットの浪人がこちらに向かって歩いてくるオープニングカットはかなり良い感じですし、タイトルが出るまでの鎬刀三郎と頭巾を被った「からす」との密談は、これから2時間余は飽きさせないであろうと予感させてくれます。
脚本も説明不足の為に見ている側が想像しなければならない箇所も有りますが総じて良く出来ています。
そして何と言っても4大スター共演というのが本作最大の売りだと思いますが、同時に最悪の結果を齎しています。
主人公の鎬は勿論ですが玄哲は鎬の好敵手?(微妙な関係です)としてそれなりに描かれているのは良いと思いますが、伊吹と弥太郎の配役に主役級の2人を当てた事で物語の余計な比重が2人にいってしまい話全体が散漫なものになってしまっています。
本来脇役であるこの2人が中途半端に目立っている為に彼等自身が活かし切れていないのは勿論、鎬の印象も薄くなってしまっています。
その好敵手である玄哲も言わずもがなです。
本来ならば鎬に軸足をどっしりと置いて話を展開させていけば、かなり面白い作品になったと思います。
その場合は本作以上に三十郎シリーズの亜流と言われる事にはなりますが…。
作中の三船さんの戦っている相手は目の前の敵ではなく、過去の三十郎での自分の演技であるように見えてしまい、決して演技の幅が広いとは言えない彼を見ていると気の毒にも映ってしまいます。
4大スター共演という要素を本作の必須条項と考えると、この話にした事でもはや成功は無かったのではないでしょうか。
また演技の面では上手いと言える役者さんは一人も居らずメインの4人のうち唯一、勝さんが存在感を出していましたが自分一人の中で完結してしまっている印象の演技でしたし、伊太八を演じた土屋さんに関しては残念の一言です。
そして冒頭の一部のシーンを除くと演出が作品全体を通して酷い事になっていたと思います。
メインの舞台をみの屋という狭い空間にして登場人物の出入りと時間軸に幅を持たせた脚本にしているのですから、話の繋ぎ方や細かい場面の見せ方等に工夫を持たせてテンポ良く見せて貰いたかったです。
殺陣のシーンでも何故此処で歌舞伎の舞台を意識した様な演出にしたのかという誇張されたものになっていますし、それとは趣きを変えたラストのからす一味との殺陣も取ってつけた様で三船敏郎特典殺陣シーンみたいになってしまっている印象です。
こういう脚本を掘り起こして中堅の役者さんを沢山使って、大胆に脚色してでも良いですから今の時代に丁寧にリメイクして欲しいと思いました。