2.ポランスキーがなぜ脚本を読んだ時点でやり直しを命じなかったのか理解に苦しむ。ジョン・アーヴィングが絶賛しているというのもとても信じられない。最大の欠点は登場人物の心理描写が不充分で感情移入することができない、という非常に基本的なこと。
まず題名に主人公の名前を冠しながら、主人公に共感するのが困難であるというのは致命的。オリバーが家出して一人ロンドンまで旅をする下りまではまだよかった。それ以降の彼ときたらただただ泣いているだけ、運命に翻弄されるがままで、自ら道を切り開こうという意志はどこにもない。喜怒哀楽の基本的な心理描写も少なく、はっきり言って空虚なキャラクターだ。
しかも信じられないことに、クライマックスが近づくに連れて主役の出番が減っていき、存在感すらなくなる。こんな少年がただ幸運だけでのし上がっていく姿を見せられても、カタルシスも何もあったもんじゃない。
共感できないのは脇役も同じ。命を懸けてオリバーを援助する人々が登場するが、彼らがそんな行動に出る動機がほとんど説明されておらず、ここでもやはり観客は置いてけ堀にされてしまう。オリバー少年には涙で母性本能をくすぐる特殊能力でもあるのか?? 薄っぺらいのは敵役も同じで、重要な役割であるはずの殺人犯は凡庸でインパクトに欠ける。唯一厚みを感じられた登場人物はオスカー男優キングスレー演じるフェイギンだが、彼ですら中途半端な人物造型であることは否めない。
それなのにストーリー展開はちょっと目まぐるしすぎるほど速い。原作が長大なのはわかるが、もう少しやりようがあったと思う。だいたい予告編で紹介していたあらすじとはけっこう印象が違っていて、微妙に誤解させるように宣伝していたとしか思えない。
どんなにリアルに十九世紀のロンドンを再現したとしても、そこに息づく人々に血が通っていなければ面白いはずがない。ポランスキーは子供でも観られる作品を作りたかったそうだが、その結果がこれだとしたら子供をバカにしている。大人も子供も楽しめない、しょうもない凡作。