1.《ネタバレ》 心の隙間を埋めるために入り込んでしまった情事の最中に、息子と夫をテロ事件により亡くした女。
彼女の喪失感と罪悪感を軸に隠された謎が暴かれるというイントロダクションだったが、実際に映し出された映画世界は随分と毛色が違っていたように思う。
真相を追うサスペンスはお飾り程度なもので、ストーリーの本質には関わってこない。
一人の女性の絶望と後悔を礎にして、たとえ無様で必ずしも道徳的でなかったとしても、愚かなテロ行為とそれに伴う悲劇から人間はしぶとく力強く立ち上がるのだ。ということをこの映画は描きたかったのだろうと思う。
サスペンスを期待した分、違和感は覚えたが、その切り口自体は興味深かったとは思う。
ただし、明らかに実際に起こったテロ事件からインスパイアされた印象は強く、主人公が“オサマ・ビンラディンへの手紙”という体で語るモノローグは少々あざとく感じた。
主人公の女性を演じたミシェル・ウィリアムズは美しく存在感のある演技を披露していたが、相手役のユアン・マクレガーはストーリー的にキャラクター性が薄く、別に彼を配役する必要はなかったように思えた。
誰しも、誰にも恥ずべきことなく真っ当に生きたいと思っている。
でも、なかなかそういうわけにもいかないことが多いのが人生だ。
その度に激しく後悔もするのだろうけれど、それでもしぶとく生きていくしかない。
映画自体の完成度や善し悪しはともかくとして、そういうことを感じた作品だった。