1.《ネタバレ》 エンテベ空港奇襲作戦については、直後に『エンテベの勝利』と『特攻サンダーボルト作戦』という便乗したTV映画が粗製乱造されたのとメナヘム・ゴ―ランがさらにそこへ便乗して一本撮ったぐらいで、なんでまた40年以上もたってからこのテーマなのかというのは?ですね。『勝利』とか『特攻』なんて勇ましい言葉がタイトルにつくので察せられるとおり、二本のTV映画は奇襲成功に浮かれたハリウッドのユダヤ系俳優たちが結集した一種のエクスプロイテーション映画みたいなものらしいので、ある意味本作はこの事件をテーマにした唯一のまともな映画なのかもしれません。 監督が『バス174』を撮った人なので、全編を通じて重苦しいドキュメンタリー・タッチで、カタルシスはまったくありません。テロリスト側とイスラエル政府内の動静を均等に描いている感じですけど、テロリスト・サイドをいわゆるサイコパスじゃなくて偏った思想を持っているけど普通の人間として描くので、そこには批判があるかもしれませんが映画の評価としては妥当ではないと思います。とくに二人のドイツ人テロリストが、ロザムンド・パイクは別にしても相方がダニエル・ブリュールですからね、狂信的なヴィランの訳が無いじゃないですか。イスラエル政府内でも、ラビン首相とペレス国防相のいかにも政治家らしい責任の押し付け合いというか駆け引きを赤裸々に描いているのも面白い。渋った首相もギリギリで作戦にGOを出すのですけど、成功の一報が入っても歓喜の表情を見せるのでもなく、「このまま交渉不能なら、この戦争は終わらないぞ」と呻くところが印象に残ります。ラビンは実はテロリストと交渉する寸前だったぐらいなので作戦決行は苦渋の決断で、決断から逃げて「一人の生命は地球よりも重い」という迷言とともにハイジャック犯に降参したどこかの国の総理大臣とはえらい違いでした。 これだけ劇的でスリリングな出来事をここまで(あえて)盛り上げずに映画化するというのは、ある意味で偉業なのかもしれません。でもそれが万人受けするわけじゃないというところが、難しいところです。