13.《ネタバレ》 伊丹監督は作中にて、自らの妻である宮本信子を「良い女だ」「美人だ」と褒めさせる事が多いのですが、本作は「妻を賛美する為に撮った」という側面が、最も強い映画なのではないでしょうか。
「やりたい事、全部やってごらんなさいよ」
「ダメだって、良いじゃないの」「一文無しになったって良いじゃないの」
「貴方くらい、私が養ってあげるわよ」
これらの台詞って、きっと監督が奥さんに言ってもらいたかった事、あるいは実際に言われたり感じ取ったりしたメッセージなんじゃないかと思えて、微笑ましかったですね。
「人間にとって、人間を自由にするくらい面白い事はない」
という台詞もまた、映画監督である自らの価値観を示した一言だったのかと思えたりして、興味深い。
映画全体としては、主人公が売春したと誤解されてしまう件と、次期首相候補の政治家と対決する件、二つのクライマックスが終盤に立て続けに起きる形になっている辺りが、やや忙しない印象を受けましたね。
全編に亘って「伊丹節」とも呼べそうな、独特の楽しい雰囲気が漂っているのは間違いないのですが、肝心の山場に差し掛かっても、どうにも気持ちが盛り上がらない。
主役の男女二組が復縁するハッピーエンドに関しても、ちょっとオチが弱かったみたいで
(えっ、これで終わり?)
と拍子抜けしてしまったのが残念です。
それでも、タイトルとなっている「あげまん」の説得力というか
(こんな女性が傍にいてくれたら、自分も色々と成功出来るんじゃないかな……)
と感じさせるだけの魅力を、主人公がしっかり備えている辺りは、お見事でしたね。
個人的好みとしては、序盤における「恋人探しの香港&ヨーロッパ旅行」の件が、妙に楽しそうに思えたもので、そちらを主題とした映画も観てみたかったところです。