3.《ネタバレ》 「戦場のピアニスト」の後に本作を観ると、作風のあまりの違いに面食らうこと間違いなしでしょう。
こっちは、まるでアントニオーニの映画を観ているよう。
シャープなモノクロ映像の中で繰り広げられる卓越した人物描写。卓越し過ぎて置いて行かれることも・・・。
冒頭のキャスト&スタッフ紹介が終わった直後、フロントガラスに反射する木々の影が消え人物の表情が浮き出るという洒落た演出に早くも唸らされます。
また、画面の手前と奥に人物を配置した構図が幾度となく出てきていて、斬新な印象さえ受けます。
舞台となる湖というのが面白く、海とは違ってたまに遠くの方に小さく島が見えたりして、遠くから目撃者がいるんじゃないかと思わせるような程良い感じの密室感が作られていたような気がしますし、登場人物の三人以外には一人の人影も出さずにストーリーが進んでいく舞台設定も異様なほどの孤独感や切迫感が出ていて、他の映画では決して感じることのない独特の雰囲気が出ていたと思います。
男同士の心理戦が微妙すぎて難しいのですが、ヨットの上の状況を例えて言うならば、飛行機のコックピットの中に一人の狂人が入ってきたというような印象で、ナイフを持った狂人が癇癪を起こさないように事を穏便に収めておきたいような感じでしょうか。
しかしながら、恐怖心を余計に煽るような演出は本作の主題から外れるということもあってか、全編を通して一度もナイフに光を反射させずに通していて、それが一筋縄ではいかない心理戦の難しさを暗に示していたように感じました。