4.《ネタバレ》 妙子=絶対不幸者で魔性の女。少女時代から愛人生活。金で売られそうになる。妙子は綾子を自分にないものすべてをもっていると思っていた。綾子=恵まれた環境で育ったお嬢さん。気分の起伏が激しい。妙子に嫉妬する。亀田=聖者。善の象徴。戦犯となり死刑直前から奇跡的に生還するが後遺症で癲癇発症。純粋すぎて嘘がつけず、心に思ったことをそのまま口にする。他人の心を見抜く力、直観力に優れている。赤間=俗人、悪の象徴。妙子に恋をし、結婚を阻むためお金を出す。恋敵の亀田を殺そうとする。
◆戦争の副産物といえる、珍奇な聖者亀田。彼は一瞬で妙子の不幸を見抜き、彼女の心をとらえてしまう。妙子の傷を癒したい一心で、結婚を申し込む。妙子は亀田はあまりに純粋すぎて、汚れた自分にふさわしくないと考え、綾子と結婚させようとする。綾子の心は揺れ動くものの、最終的に亀田との結婚を承諾。妙子は亀田が結婚したら、自分も赤間と結婚するつもりだった。しかし綾子は亀田が本当に自分だけを愛しているか知りたくて、亀田と共に妙子と対面、感情が噴出し、絶縁宣言をする。妙子は嫉妬する綾子を見て、亀田にはふさわしくない女と確信し、亀田に自分を選ぶか綾子を選ぶか迫る。亀田は戸惑うばかり。綾子は家を飛び出し、雪中をさ迷い、倒れて高熱を出す。妙子はその場で失神。嫉妬に狂った赤間は妙子を独占するために妙子を刺殺、精神を病む。亀田は精神は破綻する。純粋な心の鏡は欲望を曇りなく映し出す。亀田の純粋すぎる精神を媒介に、各人の欲望が増幅され、凶器となって跳ね返ってきた。全員が破滅するというショッキングな結末。純粋すぎる心はこの世に存在することは許されないのか?
◆男女入り乱れての息つまる心理戦。見えにくい心の動きを窓、吹雪、積雪、風、樹などの背景や仮面、悪魔像、服装、蝋燭などの小道具、そしてライティングで豊かに表現する。構図もビシビシ決まる。映画の技術教科書のような映画。
◆純粋すぎる心というのは得てして人を傷つける。原作に共鳴して純粋な心で映画制作した監督も又打撃を受ける。フィルムは短縮され、客は入らず、批評も散々、会社から馘首を宣言される。落胆甚だしく電車にも乗らず、徒歩で家まで帰っ監督を待っていたのが羅生門グランプリ受賞の報せだった。本人は映画祭に参加していることも知らなかったのに。奇跡はある。