12.10年以上かけて延々と辞書をつくる。ただひたすらに言葉を集め、編纂する。
おびただしい言葉の海に放り込まれ、漂い、もがき、“向こう側”に辿り着こうとする映画。
極めて地味な映画である。でも、なんとも愛らしい映画だった。
「言葉」そのものを敬い、愛する日本人ならではの物語だと思う。
また、「仕事」に一生をかけることへの憧れと羨望の描き出し方も、日本人ならではの特性をくすぐるものだった。
そういう意味では、とても日本人らしい映画だと思うし、この国の人々の普遍的な一側面を世界に対して理解してもらうにも有意義な映画だとも思う。
映画としては非常にオーソドックスで面白味が薄いようにも見えるけれど、一つ一つの画づくりはとても丁寧だった。
たとえば、編集室の書類の積み重なり方や、主人公の下宿の佇まいに至るまで、登場人物たちが息づく空間の空気感がちゃんと伝わってくる。
作り込まれた映画の世界観は、時に秀逸なアニメーションに通じる雰囲気を覚えた。
特に主人公とヒロインが出会うシーンなどは、ありふれた描写ではあるけれど、とてもキュートでファンタジックだった。
主演の松田龍平は地味な物語の地味な主人公を、彼の愛妻が言うように「面白く」魅力的に演じていた。
宮﨑あおい、オダギリジョー、小林薫ら脇を固める俳優たちの存在感もそれぞれ素晴らしく、味わい深い人間模様を見せてくれた。
映画的工夫の軽微な欠如は感じ、物語の核となる「言葉」や「料理」などにもう少し効果的にフォーカスを合わせてみても良かったように思える。
そうすれば更に芳醇な映画になったかもしれないけれど、そのいきすぎない「真面目さ」がこの映画のあり方だろうし、それはひいてはこの国が見つめ直すべきあり方に繋がるものなのだろうと思う。