1.《ネタバレ》 伝統と外聞をもっとも重んじる、上流階級の華やかな社交界において不倫の恋に苦悩する若く美しい人妻アンナを襲う悲劇――。ロシアの文豪レフ・トルストイのこれまで何度も映画化されてきた超古典的な小説の再映画化、しかも原作は分厚い文庫本で上中下巻にも及ぶ長~いストーリーをどう2時間強という枠のなかに、それも不倫がさしてスキャンダルなものでなくなった現代社会において今回はいったいどんなアプローチで収めてくれたのだろうとワクワクしながら鑑賞してみました。冒頭から、劇場の舞台裏のような映像を随所に差し挟むというまるで劇中劇のような作風に面食らい、ちょっと嫌な予感がしたのですが、いつの間にかそんなに気にならなくなり、そればかりかあの長大な原作をちゃんとスムーズに見せてくれてなかなか効果的な演出となっておりました。おかげで、愛するがゆえの弱さや力強さが複雑に交錯する主人公アンナの人間的な魅力が深く描けていたと思います。何もかも失ってしまうかもしれないのに、それでもヴロンスキーの身体に抱かれたいと願うアンナのモラルや常識を超越した若さゆえの情熱はなかなか見応えありました。うん、若いっていいよねー(笑)。ただ、それに比べてアンナが最後、煩悶の果てに鉄道へと身を投げる心理描写が幾分か弱いような気が…。もう少し長くなってもいいから、そんな彼女の極限の葛藤をもっと丁寧に描いて欲しかったように思います。そこが少し残念ではありましたけど、それでもセンス溢れる美しい映像の数々や、小技の効いた冴えた演出、華のある役者陣の熱演等と、最後まで充分に堪能させてもらいました。うん、なかなかの良品です。