3.《ネタバレ》 これ、とんでもない話ですね。
実話ネタという予備知識が無い状態で観ていたら、流石に呆れて「リアリティに欠ける」とツッコミを入れちゃっていた気がします。
この手の「異常な状況下における人間心理」を描いた映画は過去にもありましたが、舞台となるのが大学やら疑似刑務所やらではなく、身近な場所であるファーストフード店であるという点も面白い。
それゆえに、被害者である店員達が等身大に感じられるし、日常の中で起こった事件の異常性も、より際立ったように思えます。
恐らくは映画オリジナルの要素として、冒頭部分に
・「従業員を、ちゃんと教育していない事」を責められる女性店長
・「今クビにされると凄く困る」と同僚に話す被害者女性
・両者には「婚期を逃した年増女」と「恋人が複数いる若い女」という溝がある
という伏線を張ってあるのも上手い。
ただでさえ現実味の無い事件なのだから、そういった細かい部分で少しでも物語に説得力を持たせようという、作り手の心配りが感じられました。
被害者だけでなく、悪戯電話を行う犯人側の描写も、これまた丁寧で、いやらしいんですよね。
「全ての責任を負う」「出来れば穏便に済ませたい」という台詞を、如何にも頼もし気に口にしたり、かと思えば「君なら警察官になれるよ」「店長の鑑だな」と煽てたりして、被害者達を巧みに操ってみせている。
特に呆れたのが「誰がこんな事、好きでやるか。そんな奴どこにもいない」と、好きでやっている犯人自身が言い放つシーン。
とびきり皮肉が効いている演出であり(本当に酷い奴だなぁ……)と思わされました。
観客としては、そんな犯人が早く捕まってくれるのを望む訳ですが、中々そうは行かず、ついに「性行為の強要」という決定的な犯罪が行われ、気分がドン底に落ち込んだところで、颯爽と「冷静な第三者」であるハロルドが現れ、場の空気を一変させてくれる流れも良いですね。
揺れ幅の大きさが快感になるというか、本当に安堵させられるものがあり「おい、あの男の命令はおかしいぞ」とハロルドが言い出した時には、もう拍手喝采したい気分になりました。
その後「犯人には幼い娘がいて、家庭では良き父親である」「今回だけでなく、同様の事件が他の州でも起きていた」「犯人はセキュリティ関係の仕事をしている人間だった」と、衝撃の事実を次々に明かしていく訳ですが、ここであまり時間を掛け過ぎず「ようやく犯人から解放された」という安堵感の余韻を残したまま、最短時間で終わらせる構成も見事。
欲を言えば「果たして店長は加害者だったのか? それとも被害者だったのか?」という問題提起だけでなく、犯人に決定的な厳罰が下される場面も欲しかったところですが、そこは実話ネタの悲しさ。
逮捕を匂わせるシーンだけで終わっており、勧善懲悪のカタルシスを得られなかったのが、唯一残念でしたね。
同事件を元ネタにした作品としては「LAW&ORDER:性犯罪特捜班」というドラマの第二百話「権力と羊」が存在し、そちらでも犯人が曖昧な最期を迎えたりするので、実にもどかしい。
せめてフィクションの世界では、スッキリと事件解決させて欲しかったものです。