2.《ネタバレ》 劇場公開当初からさほど高い評価を受けた形跡がなく、今では映画史に完全に埋もれた感のある作品ですが、汚職警官ものとしてはなかなかよくできた作品だと思います。制作された時期がかなり前なので現在の目で見ると展開の鈍重さ等が多少気になるものの、そうした欠点には目をつむれるほど主題部分は良くできていました。
リチャード・ギアにとって初の悪役ということですが、当て書きかと思うほどギアとデニス・ペックの相性が良く、ギアが本来持つ清廉なイメージとうまく混ざり合うことでペックの多面性がうまく表現されています。「子供を持てばすべてが変わる」という彼のセリフが象徴的なのですが、本来面倒見の良いペックが低い年収で生活苦にある仲間や後輩たちに割の良いアルバイト先を紹介しているうちに、闇の仕事の総元締めみたいになっていったという経緯が推測されます。出発点に悪意はないが、仲間や家族の生活を丸ごと背負うようになったことで、悪の道から外れることが許されなくなった同情すべき背景を持つ悪党として描かれているのです。
他方、アンディ・ガルシア演じるレイモンド・アヴィラは一応正義の側に立っているものの、背負うものを持たない者ゆえの薄っぺらさのある人物として描かれています。こちらもまた、若手の有望株として絵に描いたような正義漢を多く演じていた当時のアンディ・ガルシアのパブリックイメージをうまくひっくり返したキャラクターとなっており、演者とキャラクターとの間での化学反応が起こっています。
アヴィラはキャリアウーマン(死後)の奥さんとのダブルインカムである上に子供も持っておらず、経済的には満たされた生活を送っています。また仲間たちとの交流も少ないためノンキャリアの警察官たちの切実な現状が見えていません。そんなアヴィラですが、ペックからの心理的な揺さぶりを受けると醜態をさらしたことからも伺える通り、彼は根っからの正義漢ではなく、清濁併せ呑まねばならない場面に遭遇したことがない人物が教科書的な正義を唱えているだけという描き方となっています。
結局、ペックもアヴィラも何かしらが欠けた人物であり、どちらが正しいのかについて、監督は答えを出していません。勝ったのはアヴィラだったが、ペックの悪事が暴かれたことで彼の家族や世話していた警察官たちの人生は大きく狂ってしまったはずで、果たしてそのことが正義の執行と言えるのかは疑問です。ペックは尻尾を掴まれかけたために逸脱した行動をとったものの、それ以前の彼は堅気に迷惑をかけない範囲内でうまくやっており、彼が生み出していた均衡を許しておくこともひとつの正義だったのではないかと思います。