3.原作を読んだときには巨大カジキとのやりとりを思い浮かべかなりわくわくして読んだのですが、映画を見ると今ひとつ盛り上がりに欠けます。制作された年代を考えれば映像に関してどうこう言うのは酷というものでしょうし、基本的に小さなボートの上での一人芝居みたいな物なので、仮に現代の技術で作り直しても映像的なインパクトはそれほど増さないような気がします。この映画に限らず、「翼よ!あれが巴里の灯だ」や「太平洋ひとりぼっち」のように狭い空間での一人きりの世界は、本だと想像をめぐらせながら読むことが出来ておもしろいのに、映像として見せられると映像の具体性に引っ張られて想像の世界が広がらず、どうしても単調な印象しか残らなくなってしまいます。おまけにスペンサー・トレイシーの釣り糸を手繰る仕草がとても巨大魚を相手にしているようには見えないところも、のめり込めない要因の一つです。ですが、長時間にわたる格闘の末に訪れるちょっと物悲しい結末のおかげで、見終わった後はちょっとした感傷に浸れます。