97.《ネタバレ》 観賞後「良い家族だなぁ……」と、しみじみ呟いてしまいました。
家族だけでなく、主人公の周りにいる男の子、女の子、おじさん、おばさん、誰もが魅力的で、良い人ばかり。
それだけに、終盤にて彼らに別れを告げて旅立つシーンが、とても切なかったですね。
お婆ちゃんが、力強く主人公を抱きしめてから、あえて突き放すようにして離してみせる場面。
ずっと同じ部屋で暮らしてきた主人公の兄が「寂しくなるよ」と、弟には聞こえないように呟いてみせる場面。
どちらも素晴らしかったです。
似たような内容としては「遠い空の向こうに」という映画が存在しているのですが、あちらが夢を叶えてみせた主人公達を主題に据えた品だったのに比べると、こちらは主人公の夢を叶える為に手助けする周囲の人達を主題としているように感じられましたね。
印象深いのは、主人公にボクシングを教えていた中年のオジさん。
てっきり「バレエなんて男のやるもんじゃない」と、親父さんと一緒になって反対するポジションなのかと思いきや、物凄く親身に応援してくれるんです。
ロイヤル・バレエ学校を受験する事になった主人公の為に、小銭をかき集めて資金援助までしてくれたし、結果を不安視する主人公に対し「大丈夫、絶対に受かってる!」と励ましてくれる姿には、心温まる思いがしました。
こういった心地良い意外性って、本当に好きですね。
そして何といっても、この映画のクライマックスは、息子の夢を叶える為に父親がスト破りを決行するシーンでしょう。
あそこで興奮と感動を最大限に高めてくれたからこそ、その後の面接シーンでのドキドキ感、旅立ちのシーンでの寂寥感に、非常に巧く繋がっていたと思います。
何と言うか、観客の心の波を操る技に長けているのだなぁ、という印象ですね。
数少ない気になる点としては、面接の際、八つ当たりのような形で殴られてしまった金髪の少年に対し、主人公が謝罪してみせたり、きちんと和解してみせたりするシーンが無かった事。
それと、てっきりヒロインだと思っていた女の子が、途中から完全にフェードアウトしてしまった事でしょうか。
ただ、後者に関しては恐らく意図的に出番を減らしたのであり(序盤にて彼女の姿が、車の陰に隠れると同時に消えてしまう演出は、その暗示?)主人公の親友である少年こそがヒロインであったと判明する意外性の為の前振りでしょうから、一概に欠点とは言い切れないかも知れませんね。
それでも観賞中「あれ? あの女の子どこいったの?」と思ってしまったのは確かです。
対するに、真のヒロインと、そう呼んでも差し支えないであろう親友の少年に関しては、別れのシーンでの「失恋」を示すキスに、何とも言えない物悲しさを感じました。
片方は友情を抱き、片方は愛情を抱いている二人の映画として考えても、上質なものであったと思います。
それらの喜怒哀楽、全てが積み重なった末に、主人公が夢を叶えてみせた「未来」へと繋がるハッピーエンドの、素敵な味わい。
良い映画でした。