1.《ネタバレ》 この映画の陰の主役と言えるのは、三橋達也たち五人の兵士が撃ちまくる九二式重機関銃です。使われているのはもちろん撮影用のレプリカでしょうが、金属を多用して製作されているので、質感がとてもリアルに感じます。機関銃発射までの手順も丁寧に描写しており、脇に控える兵士が保弾盤を使って弾薬補給するところなんて実感たっぷりです。“狙撃機関銃”の異名をとるだけのことはあって、スコープを使って射撃するシーンもあります。昭和三〇年代の映画ですから、実際にこの機関銃を撃った経験があるスタッフもいたんじゃないでしょうか。そういや軍隊経験のある親父も、「九二式重機は撃ちやすくて命中率が高い、陸軍で最良の兵器だった」と回想していました。 ほぼトーチカの中だけで物語が進行する密室劇の様な趣きもあって、日本版『Uボート』みたいなところもあります。敵の砲撃を雨あられと浴びるトーチカの中に籠る恐怖は、爆雷攻撃を受けるUボート乗員の絶望に通じるものがあるんじゃないでしょうか。三橋達也がまた自然でリアルな演技で、この軍曹についてゆけば生き残れるんじゃないか、と頼もしく感じてしまうぐらいです。でもそんな有能な下士官に率いられていても、所詮は多勢に無勢でソ連軍に叩かれて全滅してしまうわけです。その各人の死にざまもけっこうエグくて、佐藤允は火炎放射器に顔を焼かれてモンスターの様な顔貌になってしまうし、志願兵は爆破されたトーチカの中で文字通り肉片になってしまいます。明らかにラストは『西部戦線異状なし』の模倣ですけど、それなりに雰囲気はよく出ていました。 この時期に製作された日本の戦争映画には反戦を主張するイデオロギーの道具の様な代物が多かった印象がありますけど、本作は戦争というか戦闘を真正面から描いていて、なおかつ反戦メッセージとのバランスも良くとれています。ただ少し残念だったのは、九二式重機関銃にかけるような拘りを攻めてくるソ連軍の描写にも見せて欲しかったところです。戦車なんかはまるで国籍・年代不明な代物で、まるでおもちゃ屋で買ってきたブリキ戦車をそのまま撮影に使っているような感じです。どうせプロップやミニチュアを造るんなら、センスさえあればいくらでもソ連戦車に似せることができるんですけどね。