1.《ネタバレ》 前作がコレ以上無いほどに綺麗な結末だった為「無理やり作った続編」感は否めない訳ですが……
そんなハンデを抱えた上で、それでも傑作に仕上がっていた事に吃驚です。
予め断っておくと、完全無欠の出来栄えという訳ではなく、色々と欠点があるのも確かなんですよね。
監督インタビューからしても「前作だけで完結するはずだった」「予想外の大ヒットとなった為、続編を作る事になった」という事は窺えましたし。
何といっても、前作の白眉であった「あえてドラえもんに会わない大人のび太」の感動が薄れる形になったのは、本当に寂しかったです。
「ドラえもんに会わないと語ったからこそ、こんな失踪事件に発展した」って形なので、ロジックとしては綺麗に繋がってるんですが、理性ではなく感情が納得出来ない感じ。
それと、出木杉くんが急な出張のせいで結婚式に出席しないというのも、欠点というか不満点。
恐らく「彼がいたら、のび太の入れ替わりに気付いてしまう」「原作と違って彼が出席しない未来に変わったから、のび太は迷いが生じた」って事なんでしょうけど……
やっぱり、出木杉くん好きとしては式に参加して、一緒に祝う姿を見たかったんですよね。
「月面探査記」を踏まえて考えると、彼の出張先が月っていうのは嬉しかったんですが、それならそれで「出木杉くんだけでなく、ルカも月から結婚式を見守ってる」的な描写を挟んでも良かったんじゃないかと。
その他「入れ替えロープで記憶が戻る際に、ドラえもんの涙が起こした奇跡という力業に頼ってる」「0点の答案や亡くなった祖父などの要素をエンディング絵で補う必要があった為、今回はNG集が存在しない」って辺りも、人によっては欠点になるかも。
では、何故そんな「欠点の数々を抱えた映画」が傑作に成り得たかというと……
やはり、脚本と演出が上手いからなんですよね。
自分の場合、山崎監督筆の小説版も読了済みだったのですが、小説では大して感銘を受けなかった場面が、映画では凄く面白い場面になっているんです。
例えば「透明マントを被ったドラが、こっそり道具を回収していく場面」に「時間軸の異なるのびドラ達が、エスカレーターで擦れ違う場面」なんかがそう。
この辺りは、やはり魅せ方が上手いというか、脚本担当でもある山崎監督は「小説家」ではなく「映画人」って事なんでしょうね。
メイン監督である八木監督の演出手腕と合わさって、本当に観ていて楽しかったし、序盤の伏線が回収されて一つに繋がる場面では、凄くスッキリとした知的昂奮が味わえました。
そういった大人向けな魅力も備えている一方で「スクーターに乗って町中を暴走する場面」とか「小さくなったドラが結婚式場を飛ぶ場面」とか、子供の感性に寄り添ったような、ワクワクさせられるアクション要素が備わっている辺りも、これまた素晴らしい。
上述の「複雑な時間軸ネタ」を理解し切れないような幼子だったとしても「パパが鏡を覗き込みつつ『親の顔が見たい』とボヤく場面」なんかでは、自然と笑えそうでしたからね。
こういうバランス感覚って、とても大切だと思います。
ニヤリと出来る小ネタも色々散りばめられていたし、前作で示唆されていた「満月教会」から繋がる形で、満月牧師が登場してくれた事も嬉しかったです。
同じ2020年公開の「新恐竜」ではピー助の再登場という、ドラ映画史上最高のサプライズがあった訳ですが、それと同年公開の本作でも「劇場版ゲストキャラの再登場」が拝めた訳だから、非常に感慨深い。
お婆ちゃん絡みの場面も、情感を込めて描かれており、とても良かったのですが……
何といっても一番感心させられたのは、ジャイ子の扱い。
本作における彼女って、全然喋らないし出番も無かったのに、最後の最後でMVP級の活躍。
「のび太と静香の、幸せな結婚風景」を絵に描くという、素敵なプレゼントを用意してくれたんですよね。
思えばジャイ子こそ「本来のび太と結婚するはずだった花嫁」であり、そんな彼女の扱いって、静香ちゃんと結婚してたかも知れない出木杉くん以上に難しいはずなんです。
もしかしたら、今でものび太を好きなのかも知れない。
結婚式の姿を描く事で、ようやく恋心を断ち切って、二人を祝福する気持ちになれたのかも知れない。
そんな彼女について多くは語らず「最小の出番で、最高の結果」に結び付けてみせたのは、本当に見事でした。
ジャイ子が、二人の絵を描いてくれたように。
のび太とドラえもんが、お婆ちゃんに「お嫁さん」を見せてあげたように。
この映画もまた「ドラえもん」という作品を愛する人々への、素敵な贈り物だと思えました。